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[Intro] [Verse 1] 朝の七時四十三分に関して言えば すべてのつり革は同じ角度で傾いて 三十七度の体温を持った壁が 四方から私に寄せてくる 誰かのワイシャツの背中が私の胸に貼りついて その繊維の一本一本が 呼吸のたびに動くのが見える 五ミリの靴底の隙間を守ることが 今の私に残された唯一の国境線で [Verse 2] 三十個のスマートフォンが青白く光って それは深海の底に沈んだ街の窓みたいで みんな自分だけの水槽の中を覗き込んでいる 私だけがどの水槽も持っていなくて 剥き出しの目で天井の蛍光灯を数えている 一本 二本 三本 そして四本目が点滅している あの点滅の周期と私の脈拍が重なる瞬間がある [Pre-Chorus] 肋骨の内側で風船がひとつ膨らんでいくような 息を吐こうとしても出口がどこにも見つからないような ドアの上の液晶パネルが次の駅名を映し出して あの緑色の文字だけが今この箱の中で 唯一動いているものだと気がつく あと四分 あと四分 [Chorus] この箱から降ろしてくれ 天井がゆっくりと私の背骨に向かって降りてくる この箱から降ろしてくれ 肺が誰かの荷物の下で 折り畳み傘みたいに折り畳まれていく [Instrumental] [Verse 3] 隣に立っている人のイヤホンの隙間から 知らない歌の高音だけが細い糸みたいに漏れてきて それがこめかみの横で揺れるたびに 私は自分の鼓膜が薄い膜であることを思い出す 吊り広告の中の白い歯をした人たちが 百人の同じ笑顔でこっち側を見ている 私は今朝自分で縛った髪のゴムの締めつけを 指先で確かめるけれど ほどき方がわからない [Pre-Chorus] 肋骨の内側であの風船が潰れていくような 押すことも退くことも許されないような 曇った窓ガラスに指の先で何か書こうとして 結局なにも書けないまま指の跡だけが残る あと三分 あと三分 [Chorus] この管から降ろしてくれ 床が静かに私の膝の裏まで迫ってくる この管から降ろしてくれ 肺が真空パックの中のシャツみたいに 空気の記憶だけを残して平たくなっていく [Bridge] 改札を抜けた三月の朝のことを思い出そうとする 駅前のロータリーには排気ガスの膜が低く漂っていて バスのディーゼルの匂いが鼻の奥に届いた瞬間に それでも私の肺は好きなだけの空気を 好きなだけの速さで吸い込むことができた あの三秒間のことを私はずっと覚えている たった三秒の贅沢がその日のすべてだったから [Instrumental] [Chorus] この臓器から降ろしてくれ 頭蓋骨の内側が外側より狭くなっていく この身体から降ろしてくれ 肺はもうどこにもない 肺があった場所に誰かの肘が収まっている [Outro] 長い長い圧縮された時間のあとで プシューという空気の抜ける音がして ドアが開いて 一歩だけホームに出る 三月の排気ガスの空気が 私の気管支の隅々まで広がっていく それは痛みに似た温度で 私はまだ自分の肺の形を思い出せないでいる