Song Cover Image

左足だけ、少し減っている

V5.5

最初の日を覚えてる 白すぎる僕を履いて 君は鏡の前で何度も 足元ばかり見て笑ってた 紐を結ぶのが雑だから 右と左で長さが違った 玄関を飛び出した瞬間 僕の時間も走り出した 雨の日には泥だらけ 晴れた日には砂まみれ 君は気にもしてなかったけど 僕は全部覚えてる 遅刻しそうで走った朝 帰りたくなくて歩いた夜 誰かに会いたくて急いだ道 誰にも会いたくなくて逃げた道 君が忘れた一日まで 僕は足元で覚えてる 左足だけ少し減っている それだけ君は前へ進んだ 綺麗な道ばかりじゃなかった 水たまりにも何度も落ちた それでも僕を履くたびに 君はどこかへ向かってた それでいい それがいい 僕は歩くために ここにいた 好きな人を見つけた瞬間 急に歩幅が速くなった 別れた日の帰り道だけ どうしてあんなに遅かったんだろう ベンチの下で震えた夜 何時間も動かなかったね ぽつりと落ちた涙が 僕のつま先に染み込んだ 次の日 君はまた僕を履いた 何もなかったみたいに 紐を結んで そのとき少しだけ 嬉しかった 僕には君を 立ち直らせることなんてできない だけど 立ち上がった君を もう一度運ぶことならできた 左足だけ少し減っている 踵には小さな傷がある 取れない汚れも ほどけた糸も 全部 君と歩いた証だった 新品だった頃より 今の僕のほうが 君のことを知っている 歩き方も 走り方も 悲しい日の重さまで ある朝 君は新しい靴を買った 玄関の端に置かれた僕は 初めて君の背中を 足元じゃない場所から見た 似合ってるよ 少しだけ 悔しいけど 似合ってる 何日かして 僕は箱に入れられた 暗くなる直前 君が一度だけ 僕の汚れたつま先を 指でなぞった 「ありがとう」 聞こえた気がした 君をいちばん遠くまで 連れていけたのが 僕だったなら それでいい これから僕の知らない道を たくさん歩いてほしい 転んでもいい 立ち止まってもいい また靴紐を結んで 歩き出せばいい 左足だけ少し減っている 君が生きた分だけ 少しずつ 減っている