
Dust Trail【新・異世界で始める二人旅10】
[Intro] [Verse 1] 誰もいなくなった この場所に 残された言葉を ひとつ拾った 忘れられた 小さな記憶 何のためなのか まだ分からない [Pre-Chorus] 消えてしまえば それで終わり? なぜか心が そうは言わない [Chorus] 残された かすかな跡を たどって Lost Memory Lost History まだ眠る 声を探す 誰も見ない その場所にも きっと 意味があるから Dust Trail 消えかけた 記憶を開いて [Verse 2] 変わってしまった 時代の中で いらなくなったものも あるのだろう それでもずっと 受け継がれてきた 小さな印は 何を待っていた [Pre-Chorus] 当たり前だった 景色さえ いつか 変わってしまうなら [Chorus] 残された かすかな跡を たどって Old story New beginning まだ知らない 答えに触れる 消えていった その願いまで 無駄に したくないから Dust Trail 閉じられた ページを開いて [Break] Under the sand Something remains Under the silence Something awakes [Build-Up] Can you feel it? Deep below Something is calling Unknown [Final Chorus] 忘れられた ものが今 目を覚ます Lost Memory New History ここからまた 始まってゆく 誰も知らない その答えを 今は 知らなくていい Dust Trail 残された 印のその先へ [Outro] 名前さえ 消えても まだ ここにある 【Episode Story】 【第10話・Dust Trail】 「帰れ。」 老人の短い言葉に、主人公はしばらく何も返せなかった。巫女も静かに老人を見ていたが、やがて小さく頭を下げる。 「……分かりました。突然押しかけてしまって、申し訳ありませんでした。」 主人公も続いて頭を下げた。 「助けてもらった上に、いろいろ聞いてしまってすみません。今日は街へ戻ります。」 老人は何も言わなかった。その横で少女が少しだけ眉を動かす。 「……帰るの?」 「うん。そのつもりなんだけど……。」 主人公は来た道を振り返った。見えるのは、どこまでも続く砂丘だけだ。老人がため息をついた。 「送ってやれ。」 「いいの?」 「このまま帰らせて、また砂嵐に巻かれても面倒だ。」 「……分かった。」 少女は短く答え、外へ向かう。主人公は老人へもう一度頭を下げた。 「ありがとうございます。」 三人は砂守の住居を後にした。砂嵐は過ぎていたが、空にはまだ薄い砂塵が残っている。少女は迷う様子もなく先を歩き、主人公と巫女は少し後ろをついていった。しばらく歩いたところで、主人公が口を開く。 「そういえば、君たちって……砂守の民なんだよね?」 少女が振り返る。 「うん。」 「街で三日くらい聞き回ったけど、知ってる人、ほとんどいなかった。」 「昔はもっといた。」 「今は?」 「ほとんどいない。」 巫女が少女を見る。 「何かあったのですか?」 少女は少しだけ考えてから答えた。 「別に。何かあったわけじゃない。少しずつ、いなくなった。」 「少しずつ?」 「街に移った人もいる。商隊に入った人もいる。別の国に行った人も。」 主人公が首を傾げる。 「どうして?」 少女は足元の砂を見る。 「昔は、今より砂嵐がずっと多かった。」 「砂嵐?」 「うん。砂守は風と砂を読んだ。嵐がどこから来るか、どの道が埋まるか、どこを通れば安全か。」 少女は遠くの砂丘を見る。 「商隊を案内したり、迷った人を探したり。街まで連れて帰ったり。」 主人公は納得したように頷いた。 「それで『砂守』(すなもり)なのか。」 「たぶん。」 「そこは、たぶんなんだ。」 少女は気にせず続ける。 「でも、だんだん砂嵐が減った。街道も整って、砂を読めなくても移動できるようになった。」 巫女が静かに言う。 「必要とされる機会が、少しずつ減っていったのですね。」 「うん。村のみんなは街に行った。じいちゃんは残った。私はじいちゃんといる。」 主人公は少し前を歩く少女を見る。 「じゃあ、今日みたいな砂嵐も昔なら普通だった?」 少女はすぐに首を横に振った。 「違う。」 「え?」 「昔は多くても、読めた。」 少女の表情がわずかに曇る。 「でも最近の砂嵐は読めない。急に来る。向きも変わる。前触れも短い。」 「最近って、どのくらい?」 「ここ数か月。最初はたまたまだと思ってた。でも、どんどん増えてる。」 巫女が真剣な表情になる。 「今日の砂嵐も予測できなかったのですか?」 「うん。あんな風、初めて。」 主人公が少し驚く。 「砂を読める君でも?」 少女は少し悔しそうに目を伏せた。 「……分からなかった。」 主人公と巫女が顔を見合わせる。 「アルカの時と、ちょっと似てない?」 「はい。あの時も、印が弱まったことで周辺に魔物の異常が起きていました。」 少女が二人を見る。 「印が弱いと、砂嵐が増える?」 巫女はすぐには頷かなかった。 「まだ分かりません。ただ、この地域に印があるのなら、もしかしたら影響しているかもしれないです。」 「直したら?」 「原因が印なら、収まるかも…しれません。」 少女は黙る。少し歩いてから、ぽつりと尋ねた。 「印って、何?」 主人公が少し驚く。 「知らないんだ。」 「今日、初めて聞いた。」 巫女は歩きながら、五つの印について簡単に説明した。千年前、異世界から来た勇者と初代巫女が、崩れかけた世界を安定させるために残したものが「印」であること。そして今、その力が少しずつ弱まり始めていること。 少女は最後まで黙って聞いていた。やがて街の城壁が見えてくる。 「ここまででいい?」 少女が足を止めた。主人公が振り返る。 「ありがとう。本当に助かった。」 「本当にありがとうございました。」 巫女も頭を下げる。少女は小さく頷いた。主人公が街の方を見る。 「僕たちは、もう少しここで調べてみるよ。」 「印を?」 「うん。」 「じいちゃんは教えないと思う。」 「だろうね。」 主人公は苦笑する。 「でも、無理に聞き出すつもりはないよ。」 少女は少しだけ主人公を見た。 「……そう。」 それだけ言うと、少女は来た道を戻っていった。 ――その夜。 砂守の少女は祖父と簡単な食事を終えたあとも、昼間の話が頭から離れなかった。五つの印。最近増えた砂嵐。そして、祖父の言った「砂の奥に眠るもの」。 「ねえ、じいちゃん。」 「何だ。」 「砂の奥に、何があるの?」 祖父の手が止まる。 「昼にも言っただろう。お前は知らなくていい。」 「でも、最近の砂は変。」 「だからこそ、余計なことはするな。」 「……なんで?」 老人は少女を見る。 「知らなくていいこともある。」 少女はしばらく祖父を見ていたが、それ以上は何も言わなかった。夜が深くなり、祖父が眠ったあと。少女は家の奥にある棚の前へ座った。そこには、昔から何冊かの古い本が置かれている。砂漠での暮らし方、風の読み方、昔使われていた水場、砂丘の移り変わり。幼い頃から存在は知っていたが、まともに読んだことはなかった。少女は一冊を開く。最初の方は、知っていることばかりだった。だが、後ろの方で手が止まる。 古い地図。 今の街道とはまるで違う。道ではなく、砂の流れと岩の位置だけを頼りに描かれた、昔の砂守の道。その先に、一つの印が付けられていた。少女は目を細める。祖父が昔から、決して近づくなと言っていた方向と重なる。さらにページをめくる。古い文字で、すべては読めない。 それでも、 『砂が乱れる時』 『古き道』 『眠る場所』 いくつかの言葉だけは分かった。 少女はしばらく、そのページを見つめていた。 ――翌朝。 主人公と巫女が宿の食堂で朝食を取っていると、入口から聞き覚えのある声がした。 「いた。」 主人公が顔を上げる。 「え?どうしたの?」 少女は無言で主人公たちの方に近づき、古い本をテーブルへ置いた。 「これ。」 巫女が表紙を見る。 「ずいぶん古い本ですね。」 「家にずっとあった。」 少女は地図のページを開いた。 「ここ。」 主人公と巫女が覗き込む。 「これ、昔の道?」 「砂守が使ってた道。」 少女は指で線をなぞる。 「この先が、じいちゃんが行くなって言ってる場所。」 主人公は少女を見る。 「おじいさんは、この本を持ってきたこと知ってる?」 「知らない。」 「……やっぱり。」 「あとで返す。」 「いや、返せばいいって話でもない気がするけど。」 巫女も少し困ったように微笑む。 「なぜ、これを私たちに?」 少女は少し黙ってから答えた。 「確かめたい。」 「砂嵐のこと?」 「うん。」 少女は本を見る。 「砂守なのに、今の砂嵐が読めない。こんなの今までなかった。」 少し間を置く。 「このまま砂漠がおかしくなるのは嫌。」 主人公はすぐには答えなかった。 「危ないかもしれないよ。」 「分かってる。」 「おじいさんが止めてる場所だし。」 「それも分かってる。」 「……それでも行くんだ。」 「うん。」 主人公は巫女を見る。巫女も少し考えたあと、頷く。 「異変の原因が印にある可能性がある以上、私たちも確かめる必要があると思います。」 主人公は小さく息を吐いた。 「分かった。ただ、危ないと思ったらすぐ戻ろう。無理もしない。」 少女は頷く。 「うん。」 「そこはちゃんと聞いてね。」 「聞いてる。」 主人公は苦笑した。 三人は街を出た。 少女は古い本の地図と周囲の砂丘を見比べながら、先へ進んでいく。道らしいものは何もない。 「これ、本当に道なの?」 主人公が尋ねる。 「昔は。」 「今は完全に砂だね。」 「だから砂を見る。」 少女は立ち止まり、風に流れる砂を見た。 「こっち。」 主人公には何が違うのかほとんど分からない。 「すごいな……。」 少女は振り返らない。 「普通。」 「君たちには、でしょ。」 しばらく進んだ頃だった。少女が突然足を止める。 「止まって。」 主人公もすぐに止まる。 「どうした?」 少女は足元を見る。砂の表面が、わずかに波打っていた。 「下にいる。」 「何が?」 答えるより早く、地面が大きく弾けた。 「うわっ!」 巨大なサンドワームが砂の中から飛び出す。太い胴体。硬い外皮。大きく開いた口の奥に、鋭い牙が何重にも並んでいる。 「下がってください!」 巫女が杖を構える。主人公も剣を抜いた。 視界に文字が浮かぶ。 ユニークスキルを発動します スキル「Overtake」 対象:サンドワーム 同期開始…… 「始まった!」 サンドワームはすぐに砂へ潜る。 主人公が周囲を見る。 「どこ行った!?」 「右!」 少女の声。 主人公が反射的に横へ飛ぶ。直後、さっきまで立っていた場所からサンドワームが飛び出した。 「今の分かったの?」 「砂が動く。」 少女は腰からナイフを抜く。サンドワームが身体を振り回す。少女は低く身をかわし、一気に距離を詰めた。 「ウィンドカッター!」 ナイフを振り抜く動きに合わせて鋭い風の刃が走り、サンドワームの外皮を切り裂く。だが、傷は浅い。 少女がすぐに距離を取る。 「硬い。」 主人公が目を見開く。 「風の魔法を使えるんだ!」 「少しだけ。」 少女はナイフを構え直す。 「魔法より、こっちの方が得意。」 「なるほど!」 その時、サンドワームが再び潜った。 「また来る!」 巫女が杖を向ける。しかし、いつものように氷はすぐには生まれない。杖の周囲に小さな水滴が少しずつ集まり始める。 「すみません!ここでは魔法を使うのに少し時間がかかります!」 「大丈夫!こっちは何とかする!」 少女が砂を見る。 「正面。速い。」 主人公が前を見る。砂の下を何かが一直線に迫ってくる。 「左!」 主人公と少女が同時に飛び退く。サンドワームが地上へ飛び出した。 少女がナイフを振る。 「ウィンドカッター!」 風の刃が顔の前を走り、サンドワームがわずかに進路を変える。 主人公は周囲を見回した。少し離れた場所に、大きな岩壁がある。 その瞬間! ユニークスキルを発動します スキル「Overtake」 対象:サンドワーム 同期能力 ・戦闘力 同期 +ADD ・防御力 同期 +ADD ・敏捷力 同期 +ADD ・魔力 同期不可 同期完了 「来た!」 身体が軽くなる。サンドワームの速度、潜る時の動き、地上へ出る瞬間の勢い。先ほどより、ずっとはっきり見える。主人公は岩壁を見る。 「……あれ、使えるかも。」 少女が主人公を見る。 「何するの?」 「僕があそこまで誘う。」 「危ない。」 「今なら避けられる。」 巫女が主人公を見る。 「無茶はしないでください。」 「うん。ギリギリまで引きつける。」 主人公は岩壁へ向かって走った。地面の砂が大きく盛り上がる。少女がその動きを追う。 「来る。」 主人公は走り続ける。 「まだ。」 岩壁が迫る。 「まだ……。」 主人公は振り返らない。 少女が叫ぶ。 「今!」 主人公が地面を強く蹴り、同期した敏捷力で横へ飛ぶ。次の瞬間、サンドワームが砂を突き破り、そのまま凄まじい勢いで岩壁へ激突した。 ドォン!! 岩壁が揺れ、砂埃が舞う。 「やった!?」 だが、サンドワームはまだ動いている。大きく身体を捻り、再び砂へ潜ろうとする。 「まだです!」 巫女の声が響く。時間をかけて集めていた水分が、サンドワームの周囲へ集まっていた。巫女が杖を振る。 「アイスバインド!」 氷が砂の上を走り、サンドワームの胴体へ絡みつく。大量の氷ではない。砂漠では、いつものような強さは出せない。それでも、岩壁へ激突した直後の巨体をほんの一瞬止めるには十分だった。 「今です!」 主人公は一瞬考える。斬っても、この外皮を簡単には倒し切れない。なら――。 「もう一回、押し込む!」 主人公が剣を両手で持ち、刃ではなく剣の腹をサンドワームの身体へ当てる。同期した戦闘力を使い、全身で押す。 「うおおっ!」 少女も意図を理解する。 「ウィンドカッター!」 狙ったのは魔物ではない。サンドワームの上に張り出していた岩。風の刃が同じ場所を何度も削り、亀裂が走る。主人公がさらに押し込む。巫女のアイスバインドが砕け、サンドワームが暴れ始めた。少女が叫ぶ。 「離れて!」 三人が一斉に後退した瞬間、崩れた岩壁が轟音とともに落下した。大量の岩と砂がサンドワームを飲み込む。しばらく砂の中で巨体が暴れていたが、やがて動きが止まった。 静かになる。 主人公は剣を構えたまま様子を見る。少女もナイフを下ろさない。やがて巫女が小さく息を吐いた。 「……もう大丈夫だと思います。」 主人公もようやく力を抜く。 「なんとかなった……。」 スキルが解除される感覚があった。 少女は崩れた砂を見つめている。 「どうしたの?」 「やっぱり変。」 「サンドワームが?」 「この辺りまで来る魔物じゃない。」 主人公と巫女が顔を見合わせる。 「砂嵐だけじゃないのか……。」 巫女が静かに頷いた。 「印が弱まっている影響だとすれば、急いだ方がよさそうですね。」 少女はナイフをしまう。 「行こう。」 三人は再び砂の奥へ進んだ。 夕方近く、少女が一つの大きな砂丘の前で止まる。 「ここ。」 主人公は辺りを見回した。 「……何もないけど。」 「地図だと、この下。」 巫女も砂丘を見る。 「何か埋まっているのでしょうか。」 その時、風が吹いた。砂丘の表面がゆっくりと崩れ、砂が流れ落ちていく。その下から、黒ずんだ古い石段が姿を現した。 「……階段?」 主人公が一歩近づいた瞬間、視界が一瞬揺れる。 その瞬間。主人公の頭の中へ、再び無機質な声が響いた。 スキル「Overtake」 対象を検索中…… 特殊対象を検知 同期可能対象:UNKNOWN 主人公は足を止める。 「……Overtakeが反応した…!」 巫女が主人公を見る。 「では、この先に……。」 少女も、砂の下から現れた石段をじっと見つめていた。祖父がずっと近づくなと言っていた場所。その入口が今、三人の目の前に姿を現していた。 ――その頃。 砂守の住居。老人は棚の前に立っていた。いつもそこにあるはずの古い本が、一冊だけない。老人はしばらく何も言わず、空いた場所を見つめていた。やがて、深くため息をつく。 「……あの馬鹿者が。」


