
友に手を引かれ、 ふと迷い込んだ映像祭で、 私は一頭のカバが泳ぐ姿に 目を奪われた。 重たいはずのその身体は、 水のなかでは月影のように軽く、 ゆるやかに、 静かに、 青い沈黙を押し分けて進んでいく。 それは泳ぐというより、 水そのものが夢を見ているようだった。 けれど後に知る。 その美しい影は、 アフリカの大地では 最も恐れられる命のひとつであることを。 河を渡る者を拒み、 縄張りを侵す者に牙を向ける、 穏やかな水面の下に 激しい力を秘めた生きもの。 動物園で見たカバは、 ただ大きな口をあけ、 陽だまりのなかで微睡んでいた。 ガラス越しの水槽では、 あの危険の輪郭を 私はついに見つけられなかった。 美しさとは何だろう。 静かに泳ぐ姿のなかに、 荒ぶる本性を隠していることか。 それとも、 誰にも見せぬ野生を抱えたまま、 なお美しく在ることか。 あの日、 水のなかを滑るカバは、 優雅さと獰猛さ、 憧れと畏れをひとつの身体に宿しながら、 深い青の底へと、 ゆっくり消えていった。

