雨の夜 帰り道 峠の先に 誰かいる 傘も差さず 岩の上 小さな人影 立っている 昨日もいたよね そこにいた 声をかけても 振り向かない ただ道の向こうを 見つめてる 「誰を待ってるの?」 返事はない だけど聞こえた 気がしたんだ 「帰ってくるって 言ったから」 雨 雨 もっと降る 風 風 もっと吹く 近づく僕を遮るように えんまく 煙の向こう まだそこにいる 人影 人影 雨の中 今日も誰かを 待っている 約束ひとつ 抱きしめて ずっと ずっと 待っている 人影 人影 消えないで 昨日より少し 小さく見える こんなに雨が 降ってるのに どうして後ろが 赤いの? 次の日 嵐になりました あの峠には 誰もいない よかった やっと帰ったんだ ……ちがう 岩の陰から 小さな音 振り返ったら 目が合った こわいかお 足が止まった 動けない くらやみの中 ひとつだけ 消えそうな赤が 揺れていた 雨 雨 消さないで 風 風 吹かないで 何度倒れそうになっても こらえる まだ消えない まだ終わらない 人影 人影 雨の中 帰らない人を 待っている 「ここで待ってて」その言葉 それだけずっと 信じてる ねえ もういいよ もう待たなくていい ひのこがひとつ 闇を照らして 消えそうな命を 照らしてる 人影 人影 顔を上げ 初めてこっちを 振り向いた 暗闇の中で 揺れていたのは 街灯でも 煙草でもない 小さな身体の その後ろ 雨にも負けずに 燃えていた ずっと人だと 思ってた 岩の上にいた あの人影 近づいて ようやく分かった あれは―― 人影じゃない。 ヒトカゲだ。