
日曜日のクランチ・ジャズ - Instrumental
商店街のアーケードに、小さなステージが作られていた。 ステージと言っても、木の平台を二つ並べただけ。 横には焼きそばの屋台。 少し先にはパン屋。 夕方の買い物帰りの人たちがゆっくり歩いている。 いかにも商店街らしいイベントだった。 そのステージの中央に、彼女は座っている。 身長152センチ。 小柄な体に、少し大きめのジャズギター。 プラチナ色の髪が夕方の光を受けて、やわらかく光っていた。 この演奏は、商店街の喫茶店のマスターが紹介したものだった。 「この子、ギターすごいよ」 その一言で決まったらしい。 彼女の横には、小さなアンプ。 そして商店街用のPA。 音を鳴らす。 ジャラン。 少し歪む。 完全なクリーンじゃない。 ほんの少しだけクランチっぽい。 彼女は少し首をかしげる。 それから、ふっと笑う。 「……これ、面白いかも」 ジャラン。 最初のコード。 メジャー7。 少しザラっとしたジャズコードが、アーケードに広がる。 パン屋の前で子どもが立ち止まる。 買い物袋を持った人が少し振り向く。 彼女の指がゆっくり動く。 ジャッ、ジャラン。 クランチ気味のコードがリズムに乗る。 少しだけピッキングを強くする。 ジャカッ。 ほんのり歪んだコードが、夕方の空気に溶ける。 難しいことをしているはずなのに、音は軽い。 彼女は少し笑いながら弾いている。 アンプのクランチが、コードに少しだけ荒い色を足す。 それが逆に、味になっていた。 フレーズが少し速くなる。 ジャッ、ジャカッ、ジャラン。 シンプルに聞こえるライン。 でも、指板を見るとかなり忙しい。 指が滑るように動く。 クロマチックな音が、自然に混ざる。 それでも、音はどこか温かい。 彼女は時々顔を上げて周りを見る。 そして、少し笑う。 その笑顔は、演奏とは関係ない。 でも。 それだけで、人が立ち止まる。 それはたぶん、否定できない。 曲の途中。 少しリズムで遊ぶ。 トン。 ギターのボディを軽く叩く。 ジャカッ。 またコード。 クランチの粒が少しだけ立つ。 夕方のアーケードに、ジャズが転がる。 屋台の匂い。 遠くの笑い声。 自転車のベル。 その全部の上に、彼女のギターが乗る。 最後のテーマ。 コードが少しだけ広がる。 ジャラン。 クランチ気味のジャズコード。 それが商店街の空気にぴったりだった。 そして。 ジャラン。 最後の和音。 少しだけ歪んだ余韻が残る。 それから、拍手。 彼女は少し照れたように笑う。 小さく頭を下げる。 そしてギターを抱え直す。 まだ夕方。 商店街のイベントは、もう少し続く。

