『デラシネの肖像Ⅴ - ふたりだけの部室 -』 (歌詞カード版) 【序文】 切なさや寂しさに気づかないまま進んでいく物語は、 いつだって、気持ちと態度の探り合いになる。 本来なら小学生のころに越えていたはずの“通過儀礼”を置き去りにしたまま大学生になると、 こんなふうに、静かで不器用な午後に顔を出すのだと思う。 いくじなし同士の空気が伝われば、うれしいな…… 【本文】 [Intro / Aメロ1: 俯瞰 (Vocal A & B)] 姫様が去った詩研は、静かになった。 残った者たちは、それぞれの居場所を見つけていた。 窓際の席でページをめくる、彼女。 斜め横の席でノートに書き込む、彼―― そして今日も、 小さな部室に、ふたり。 それを、守り人はただ見ている。 [Verse 1: 彼視点] 窓際で本を読む人。 白いカーディガンが光を透かす。 淡い輪郭だけが、やけに綺麗。 かき上げた髪の隙間に、 午後の風がすり抜けてゆく。 ページをめくる音、ペンを走らせる音。 心拍数をごまかすために、 僕はわざとノイズを立てていた。 [Verse 2: 彼女視点] 彼はペンを持つときだけ、メガネをかける。 「ルーティン」と照れながら言った。 なんだか不思議で、でも彼らしくて落ち着く。 外ではバスケットボールの音が響く。 ここだけ違う季節みたい。 ページをめくる私の手が少し震えるのは、 たぶん――風のせいにしておく。 [Pre-Chorus: 守り人視点] 以前、賑やかだった部室は、 今、静けさの中にある。 言葉にできない“温度”がある。 姫様がいなくなっても、 世界はこうして続いている。 詩研は今日も、別の物語を綴っている。 [Chorus: 交互モノローグ] この空気を壊したくない。 でも、少しだけ近づいてみたい。 言葉にしたら、たぶん終わってしまう。 けれど言葉にしなきゃ、詩にはならない。 [Bridge: 交錯 (Vocal A & B)] 「……この詩、どう思います?」 「少し、眩しすぎるかな」 「病みったほうがいいかな」 「それはどうだろ?」 「少し危うさがほしいかな?」 「例えば?」 肩が触れた。 それだけで、静かな午後が少しだけ波立った。 「あ、いや…こんなかんじで……」 「な、何のこと?」 「えっと…」 「………」 お互いの距離に戸惑う。 言葉にできない午後は、まだ続いていた。 [Chorus: 交互モノローグ] この空気を壊したくない。 でも、少しだけ近づいてみたい。 言葉にしたら、たぶん終わってしまう。 けれど言葉にしなきゃ、詩にはならない。 [Outro: 締めと余韻 (Vocal A & B)] 陽が傾く。 部室の光が、彼女の肩を縁取る。 その向こうで、彼は静かにノートを閉じる。 かけていたメガネを外して机に置いた。 コトンと音がひとつ、 世界の終わりみたいに響いた。 「でも――これは、はじまりの音」 彼女はまだ白いままで、 彼も少し影が残ったまま。 「私はただ、見守っている」 二人の鼓動と吐息だけが、 詩研の午後を満たしていく。