【語り・少女の声】 ねぇ…… あなたは、“千年樹”って知ってる? 山の奥。 地図にも載ってない森の中に、 千年以上、生き続けてる木があるんだって。 でもね。 その木を見つけた人は―― 二度と、同じ顔では帰ってこないの。 【間】 小さい頃、 おばあちゃんに言われた。 「夜の森で、名前を呼ばれても返事するな」 「木の根元に、人の顔が見えても近づくな」 「……もし白い糸を見つけたら、絶対に辿るな」 子供だった私は、 怖い話だと思って笑ってた。 ……あの日までは。 高校二年の夏。 私は友達四人と、 肝試しみたいな軽い気持ちで山へ入った。 最初は普通だった。 虫の声。湿った土。 スマホのライト。 でも途中で、 一人が言ったの。 「……ねぇ、こんな道、来たっけ?」 振り返ると、 さっきまであったはずの道が消えてた。 木しかない。 同じ景色。 同じ匂い。 その時。 【小声】 “みぃつけた” ……って、聞こえた。 女の子の声だった。 【間】 友達の一人が笑った。 「誰かいるって!」 そう言って、 声のした方へ歩いていった。 止めようとした。 でも、足が動かなかった。 木の奥から、 白い糸が垂れてたの。 細くて、長くて、 月の光で濡れたみたいに光ってた。 その糸の先に―― 木があった。 大きな、大きな木。 見上げても終わりが見えない。 幹には無数の傷。 ……いや、違う。 あれは傷じゃない。 【震える声】 人の顔だった。 苦しそうな顔。 泣いてる顔。 笑ってる顔。 全部、木に埋まってた。 ゆっくり動いてた。 まるで、呼吸してるみたいに。 【間】 友達が、その木に触った。 その瞬間。 森中の音が消えた。 虫も。風も。 私たちの呼吸すら。 静寂。 そして―― 木が、笑った。 【ノイズ演出】 “やっと、帰ってきた” 友達の顔が、固まった。 目だけが動いてた。 口だけが震えてた。 でも体は、 木に吸い込まれていった。 ずぶずぶって。 泥みたいに。 私たちは叫んで逃げた。 転んで、泣いて、 必死に山を下りた。 ……でも。 帰ってきたのは、三人だった。 一人、足りなかった。 【間】 警察も来た。 大人たちも探した。 でも見つからなかった。 ただ―― 山の入口に、 新しい木の根が増えてたらしい。 人の指みたいな形の根。 【静かに】 それから毎年、 夏になると夢を見る。 暗い森。 白い糸。 そして、あの木。 最近は、夢の中で はっきり聞こえるんだ。 “次は、あなた” って。 【長い間】 ……あ。 今。 後ろで、 木の軋む音がした。 【囁き】 ねぇ。 あなたは…… 返事、しないでね。