レジ袋から転がった 卵がひとつ割れていた 十個入りだったはずなのに 家に着いたら九個になった 「あーあ」 それだけ言って 床を拭いていたら なんだか急に 笑えてきた 僕の人生も似たようなもんだ 予定どおりに持ち帰れない 大事に抱えたつもりでも どこかでひとつ割れている 返品できない人生を 今日も僕らは持ち帰る レシートなんてとっくにない 保証書なんてもらってない 思ってたのと違います そんな理由じゃ返せない だったら残った九個で でっかいオムレツでも作ろう 冷蔵庫には 賞味期限ぎりぎりの牛乳 半分しなびたネギと いつ買ったか分からないソース 豪華じゃない 映えもしない だけど腹は減っている フライパンを熱したら 油が派手にはねやがった 熱っ! こんな日に限って 靴下まで片方見つからない 人生ってやつは 説明書が雑すぎる 「適量」とか 「お好みで」とか そこが一番 知りたいんだって 失敗したらどうしますか? 焦げたらどうしますか? 誰も答えてくれないから 弱火にして ひっくり返して それでもダメなら そのまま食べる 返品できない人生を 僕はだんだん気に入ってる 傷も汚れも初期仕様 たぶん僕だけの一点物 誰かの完成品を見て 羨ましくなる日もあるけど 箱を開けたら案外みんな ネジの一本くらい余ってる 皿に乗せたら 見た目は最悪だった 黄色い何かが 無言でこっちを見ている ……まあいいか ケチャップで 笑った顔を描いてみた そこで電話が鳴った 「元気?」 久しぶりの声だった 元気かどうか 考えてみた 卵は割れた 指はちょっと火傷した 靴下はまだ見つからない 夕飯は失敗した でも 「うん、まあまあ」 嘘じゃなかった 返品できない人生なら 最後まで使ってやろうじゃないか 新品じゃなくて構わない 僕には僕の傷がある 足りないものを数えるより 残ったものを並べてみたら 九個どころか 思っていたより ちゃんとあった 冷めたオムレツを食べながら 明日の予定をひとつ書く 「卵を買う」 それでいい たぶん人生って そのくらいで 続いていく


