かげろう かげろう 夏を告げるもの あなたは車の窓に張りついて 強い風に耐えていたわ 信号待ちのたびに 思い出したみたいに ぴこぴこ ぴこぴこ 小さなおしりを 揺らしていたわ 走りだせば また風の中で それでもあなたは そこにいた 何を見ていたの 何に耐えていたの どこへ行きたかったの どうして離れなかったの かげろう かげろう 儚き夏を告げるもの 今日はもう 風にそよがれるだけ かげろう かげろう どうしてあなたは ぴこぴこしていたの もうわかんないよ 何も言ってくれない あなたは昨日まで 家の網戸に張りついて 内と外のあいだで 小さな体を揺らしていたわ 夕飯の匂いにも 扇風機の風にも負けず ぴこぴこ ぴこぴこ また思い出したみたいに 揺れていたわ 入りたかったの 出たかったの それともただ そこが好きだったの 網目の影に 夏の光が落ちて あなたの羽だけ 透きとおっていた かげろう かげろう 儚き夏を告げるもの 今日はもう 網戸には戻らない かげろう かげろう どうしてあなたは ぴこぴこしていたの もうわかんないよ 何も言ってくれない たった一日かもしれない だけど確かにいたの 車の窓に 家の網戸に わたしの夏の すみっこに あなたは小さく 命を鳴らしていた ぴこぴこ ぴこぴこ それは言葉じゃないのに 忘れられないの 車の窓で 家の網戸で わたしの指先で ぴこぴこ ぴこぴこ もうしてくれないの 何を伝えたかったの 何に耐えていたの 何を見ていたの わかんないよ わかんないよ だからわたしも あなたを想い ぴこぴこ ぴこぴこ 小さく ぴこぴこ 夏の終わりに あなたの代わりに さよならの形で ぴこぴこしてみるの