
【プロローグ#1】 風が、囁いていた。 まだアスナロが栄華を誇っていた頃のこと。風の神の祝福を受け、空には帆を広げた飛行船が舞い、地には黄金の穂が揺れていた。人々は笑い、祈り、そして信じていた。この恵みが、永遠に続くものだと。 しかし、現実は幸福ばかりを魅せてはくれない。ある日、すべては崩れ去った。聖女が、闇に堕ちたその日から。 アスナロの歴史に刻まれた 『風哭《ふうこく》の災厄』。 闇に堕ちた聖女に対し、風の神は怒り、 風の国から、風を奪った。 空を舞う飛行船は地に落ち、風を受けて回っていた風車は止まった。 全てを叩き落とした後の風は冷たく荒れ狂い、アスナロはゆっくりと朽ちていった。 豊かだった大地は痩せ、誇り高かった人々の目からは光が消えた。 今や、隣国ミツキの施しを受けて辛うじて生き延びるばかりの、かつての栄光を忘れた国。

