
主人公は、誰かの理想の姿を演じることに 疲れているが、それをやめられない。 そんな時、本当に苦しんでいる人に出会う。 綺麗事や慰めでは、その人の闇には届かない。 だから彼女は、相手を光に導くんじゃなくて、 一緒に闇に染まることを選ぶ。 相手の傷に口づけ、罪を厭わず、 その絶望に寄り添う。それは救済のような、自己破壊。 誰かを救うことで、誰かの理想を 演じる自分を壊し、 本当の自分(=無力で愚かな人間)に なろうとしているのかもしれない。 若しくは、そうやって自分を傷つけることでしか、生きている実感を得られないのかもしれない…。 ―――――――――――――――――――――― 濡れた石畳 吐息は白く 清く在れと世界が わたしに囁く 繕った微笑みは 氷の仮面 ひび割れるたび また嘘を重ねん 格子戸の向こう 呻きは満ちる 焚きしめた伽羅の香は 虚しく壁を閉じる 救えるだなんて 思ってもいない ただ、その痛みに 触れてしまうことしかできない 天女の舞など ここにはないの あなたの夜の 淵に立つだけの 涙の理由ごと 飲み干すように 闇に染まることを 選んだ愚かな存在 「行灯の君」 その名で呼ばれるたび 心のある場所が 冷えていくみたいに 誰かの理想に 成り果てるくらいなら いっそこのまま 燃え尽きてしまいたい 墨で塗り潰した 帳面の隅 「助けて」と聞こえたのは わたしの声だと気付く 苦い薬湯の湯気が 視界を滲ませる もう何も 見たくないと瞳を閉じさせる 優しい歌など 忘れ去ったの あなたの傷に 口づけるだけの 失くした光を 探す指先が 罪に濡れることを 厭わない無力な存在 水面に映る月が 歪んでる 水底で揺蕩う クラゲのように彷徨ってる 「どこへ行きたいの」 風の音がした 「どこにも行けないよ」と 小さく応えた 天女の羽など はじめからないの あなたの闇ごと わたしを貫いて 涙も枯れ果てた その魂の隣で 灰になることを 許されて …行灯の火が、揺れて。 …落ちる。 静寂。 ただ、匂いだけが、残る。

