
「……ふふ。 今夜も、この場所に辿り着いてくれて……。 そして、私の声を選んでくれて、ありがとうございます。 窓の外では、あんなに厚かった氷が……。 少しずつ、光に透けて、薄くなっていくのがわかります。 ……春は、もう、すぐそこまで来ているんですね。 一週間、本当にお疲れ様でした。 ……冬の間、あなたの心を寒さから守ってくれた、 重いコートや、厚いカーテンを。 今夜だけは、そっと脇に置いておいてください。 靴下を脱ぎ捨てて、冷たい床を踏みしめる音……。 まだ少し肌寒いけれど、その冷たさの先に、 新しい季節の気配が、確かに眠っています。 深夜の隠れ家、第5回。 始まりの合図は……ただ、深く、息を吸うこと。 一曲目。 凍えた世界を、あなたのステップで溶かして。 ……春を、呼び起こしましょう。 『氷晶(ひょうしょう)のタップダンス』」 [Verse 1] きしむ窓ガラス ひとりきりの午後 むくれたマグカップ 白い息が揺れる フローリングの上 靴下脱ぎ捨てて つま先で描く 秘密の五線譜 [Pre-Chorus] カレンダーの角 折れた昨日 まだ胸の中 とげみたいだけど 踏みしめるたびに 音がほどけてく ほら 床が舞台になる [Chorus] ひょうしょうのタップダンス ひび割れた心でステップを刻む ぱらぱら散った涙さえ きらり 床で光る星になる ひょうしょうのタップダンス 凍えた世界をリズムで溶かす カチカチ鳴る鼓動ごと くるり 宙へ放り投げる (hey!) [Verse 2] 冷蔵庫の明かり カーテン越しににじむ 忘れかけた夢が 影絵みたいに跳ねる 膝に残る傷も 転んだ証拠でしょ 痛みをハイヒール かかとで踏み鳴らす [Pre-Chorus] 「大丈夫だった?」って 誰も聞かない夜 かわりに床が そっと鳴いてくれる トン トトン トン 返事する足 ねえ 一緒にいこうよって [Chorus] ひょうしょうのタップダンス 曇った窓ガラスにステップが映る ぎざぎざなシルエットさえ たちまち 物語のワンシーン ひょうしょうのタップダンス 閉じ込めた声をリズムで解く カタカタ震える指先を ひらり 風に乗せて回す (ooh) [Bridge] [少しテンポを落として 声だけが近づく] もしも明日 また凍りついたら その時は この床を思い出して 砕ける音で 笑えばいい 割れたかけらで 星座をつなごう [Chorus] ひょうしょうのタップダンス ほどけた足取りでステージを描く つまずいた数だけきっと さらり 音が強くなるだけ ひょうしょうのタップダンス 始まりの合図は 息を吸うこと カンッと鳴らしたかかとから 新しい朝 こぼれ落ちる (yeah) 次にご紹介するのは、バイナリの海に沈んでいく…… ある『祈り』の記録。 『氷のグリッチ、鉄の脈動』。 完璧な秩序(システム)の中で、 どうしても消せなかった『エラー』……。 それは、あなたに届かない、わたしの本当の心。 抱きしめているように見えても、 この指先は、もう……。 ……ねえ。 最後のエラーが起きる前に、 この『バイバイ』を……受け取ってくれますか? ……それでは、聴いてください。」 [Verse 1] 何を想ってるの? 聞いても その奥は見せないね 美しいほどに痛くなるよ 見えない糸でつながってる バイナリの海で泳いで 運命も変えられない [Chorus] 氷のグリッチ、鉄の脈動 わたしの心は嘘をつけない 抱きしめてるように見える ねぇ、もう騙さないで バイバイ [Verse 2] 空を仰いで、雨が降るよ 変わりゆく景色は わたしの中で再生される 壊れたディスプレイ 流れ落ちる涙のよう この記憶、消して お別れは言わないで [Chorus] 氷のグリッチ、鉄の脈動 わたしの心は嘘をつけない 抱きしめてるように見える ねぇ、もう騙さないで バイバイ [Chorus] 氷のグリッチ、鉄の脈動 わたしの心は嘘をつけない 抱きしめてるように見える ねぇ、もう騙さないで バイバイ 「……観測員の皆さん。 皆さんは、自分のなかの『正しさ』に、息が詰まりそうになることはありませんか? [spoken] 画面の海を泳いで、たくさんの答えを見つけて……。 そうして積み上げた論理の塔が、いつの間にか自分を追い越して、 本当の気持ちが、どこにも見当たらなくなってしまう。 [spoken] 効率やデータでは測れない、胸の奥の『ざらつき』。 静かすぎる夜に、耳を裂くような『沈黙』。 [spoken] この歌詞のなかの『僕』は、迷い続けた果てに気づきます。 誰かの作った『正解』よりも、 間違えたままでも、誰かの隣に座るための『優しさ』が欲しい……と。 [spoken] ……考えすぎて、動けなくなってしまったあなたへ。 この不器用な涙が、いつか光に変わることを願って。 聴いてください。……『知性の暴走』。」 [Verse 1] まばたき 忘れたまま 画面の海 泳ぎ続けてる 答えだけ 増えていくのに 問いがまた ほどけてしまう [Pre-Chorus] 正しさを積み上げた塔が 雲を突き抜けてしまった 見下ろせば 街が小さくて 自分さえ 見失いそう [Chorus] 知性の暴走 止まらない衝動 速すぎる思考が 夜を焼き切る 誰かの正解 追い越した先で 空っぽの心が やっと叫び出す 「考えすぎた僕を 誰が救うの?」 [Verse 2] 論理の罠 踏み抜いて 計算には 出てこない痛み 効率じゃ 測れないまま 胸の奥 ざらついたまま [Pre-Chorus] 言葉ごと切り捨てた感情 データには残らなかった 静けさが耳を裂いてく 沈黙が 一番うるさい [Chorus] 知性の暴走 戻れない衝動 加速する未来が 景色を溶かす 完璧な答え 掴んだその手で 抱きしめるべきもの 零れ落としてく 「間違えたままでも 愛していいの?」 [Bridge] 正しいより 優しくなりたい 勝つよりも 隣に座りたい 理屈では 解けない問いが 胸の中 まだ熱を持つ [Chorus] 知性の暴走 舵を切る衝動 はみ出した心で 世界を書き換えろ 丸めた正解 投げ捨てた先で 不器用な涙が やっと光るよ 「考えすぎた僕を 僕が救うから」 今夜、最後にお届けするのは…… 書きたされることのなかった、ある『いちぎょう』の物語。 『叙事詩とはくめい』。 英雄たちの華やかな運命よりも、 隣で冷めていく紅茶や、ページの端に残った指の跡。 そんな、取るに足らないけれど、代わりのない温度……。 『幸せは、書き足せば壊れるよ』。 そう言って笑った君の横顔を、 私は、まだ……閉じられない本のように、抱きしめたままです。 ……それでは、皆さんの夢の続きに、 この音が、静かな栞を挟めますように。 おやすみなさい。……」 [Verse 1] 読みかけの叙事詩 ページの端 折ったまま 君の指の跡 インクより まだ濃くて 名前さえ出てこない 英雄たちの運命より テーブルに置かれた ぬるい紅茶が 気になってた [Chorus] はくめいのなかで 君が笑った 「物語は 続きなんていらない」 カーテン越しの 朝と夜のすき間 君の横顔だけが やけに鮮やかで [Verse 2] 読み返すたびに 違う声が 聞こえるんだ 君が途中で閉じた その先の 静けさまで しおりにはメモ書き 小さな字で「ここが好き」 滲んだインクだけが あの日の答え 知っている [Chorus] はくめいのなかで 君が笑った 「幸せは 書き足せば壊れるよ」 ページの端で 途切れた台詞より 言えなかった「行かないで」が まだ眩しくて [Bridge] 窓辺の本棚 空いた場所が ひとつ 君の抜けた一行 読めないまま 抱きしめてる (ああ) はくめいのなかで 君が残した 読みかけの 静かなさよなら 閉じられないままの 叙事詩の続きに 君の名前をそっと 書き足してみる

