
『ただいまは、夢の中』 今夜もあなたは 墓石の前 名前を呼んで うつむいている 泣かないでって 言いたくて 土の中から 手を伸ばした その声が土に しみ込むたび 眠っていた手が 動き出す 泣いてる顔は 似合わないよ せっかく会いに 来たのにさ 「……あの、まだ死んでないんだけど」 振り向いたあなたの 悲鳴が響く 花束を抱えて 尻もちをついて 私まで なんだか泣きそうだよ 久しぶりだね 会いたかった そんな顔で見ないでよ ちょっと土まみれなだけ ねえ ちゃんと私でしょう? あなたが小さく 鼻を押さえた だから少しだけ むくれて言ったの 「腐臭じゃないの 青春の匂いなの」 泣かないで ほらここにいるよ 土まみれの手で あなたに触れたい 死んでもなお 好きだったから ただいまを言いに来ただけなの 腐臭じゃないの 青春の匂いなの あなたと笑った あの頃の匂い 夜が明けるまで そばにいさせて 今夜だけは 恋人でいさせて あわてて駆け出した その瞬間 墓石につまずき 派手にころんだ 「あっ、待って、左手そっち行った!」 「大丈夫!?」って あなたが笑った 一つずつ拾って つなぎ直して 壊れものみたいに 抱きしめてくれる バラバラな私を 抱き寄せながら 「もう離さないよ」なんて ずるいよ お日様が昇れば 私はまた 砂みたいに ほどけてしまうけど 「平気だよ またここで会えるから」 泣かないで ほらここにいるよ 土まみれの手で あなたに触れたい 朝が来れば 消えてしまっても また今夜 ただいまを言うから 腐臭じゃないの 青春の匂いなの あなたと笑った あの頃の匂い バラバラだって あなたがいるなら 何度だって 恋をしに来るよ 白い雲の上 夢から目覚め 拭った涙は どこへ落ちるの 墓標の下から 会いに行くなんて 本当は できないことなのに 眠るあなたの 夢枕には 今夜も私が 立っている 土まみれの笑顔で あなたを驚かせてる 泣かないで 夢ならここにいるよ 本物の手じゃ 触れられなくても あなたが眠る そのあいだだけ 私は何度も 帰ってこられる 腐臭じゃないの 青春の匂いなの あなたと過ごした すべての匂い お日様に当たれば 崩れてゆくけど 次の夜には また会いに行くよ 目覚めるたび こぼれてゆくもの あなたに会えない せいなのかな それとも夢で笑う 土まみれのあの子が 本物の私じゃないからかな 雲の上から あなたの眠りへ 小さく手を振る いつまで会えるのか 私にもわからない それでもあなたが少しでも 前を向けるなら 「またね。 今夜も土から、会いに行くから」

