
午後十一時五十九分 コンビニ帰りの交差点 突然カボチャが転がって 目の前で馬車に化けた 金色のドアが開いたら シルクハットの黒猫が 「お迎えに参りました」 いやいや人違いでしょう! 「本日のお客様は 世界で一番ついてない人」 失礼すぎるその説明 でもちょっと心当たりある 馬車は星屑蹴り上げて 信号無視で空を飛ぶ 雲のトンネル抜けた先 逆さまのお城が浮かんでた かぼちゃの馬車がやって来た! ガタゴト ガタゴト 月を越え 靴はスニーカー 服は普段着 王子様には程遠い かぼちゃの馬車がやって来た! キラキラ クラクラ 夢の国 人生なんて予定外 魔法はいつも突然だ! 車内の真ん中に置かれてた リボンで結んだ小さな箱 「絶対開けてはいけません」 猫は真顔でそう言った だったら最初から置くなよ! 気になるだろう そんなの! 箱から聞こえる笑い声 なぜか懐かしい気がした お城の門をくぐったら 時計は全部逆回り 踊るホウキに歌う皿 大臣はまさかの大根だ 「本日の舞踏会の主役は あなたでございます!」 拍手喝采 紙吹雪 でも僕以外は全員野菜! かぼちゃの馬車がやって来た! ドタバタ バタバタ 大騒ぎ ニンジン伯爵 玉ねぎ姫 ジャガイモ騎士が踊り出す かぼちゃの馬車がやって来た! 笑って 転んで また笑う こんなに腹を抱えたの いったいいつ以来だろう 午前零時の鐘が鳴る 突然音楽が止まった 黒猫が帽子を脱いで 静かに僕へこう告げた 「最後に箱を開けてください」 えっ? 開けちゃだめなんじゃ? 「ここまで来た人だけが 開けることを許されます」 リボンをそっとほどいたら 中には古い写真が一枚 泥だらけの小さな僕 隣には笑う母さん 段ボールで作った馬車 オレンジ色に塗ったカボチャ 思い出した あの頃は 何もなくても楽しかった お城なんてなくたって 家の中が夢の国だった 黒猫は小さく笑った 「あなたがなくしたものは 幸運なんかじゃありません」 「くだらないことで笑えた あの日のあなた自身です」 かぼちゃの馬車がやって来た 今度は静かに星を越え 大人になって忘れてた 宝物を抱きしめて かぼちゃの馬車がやって来た 涙で景色がにじんでも あの日の僕が笑ってる 魔法はまだ終わらない 気がつけばいつもの道 手にはコンビニの袋 夢だったのかと笑ったら ポケットに金色の鈴 その時スマホが震えた 母さんからのメッセージ 「昔の写真が出てきたよ あんた、カボチャの馬車 大好きだったよね」 僕は空を見上げて笑った 遠くで小さく鈴が鳴る 「またのお越しを、お待ちしております」 振り向いた交差点には オレンジ色の小さなカボチャ ……そして黒猫の足跡

