
雲海の涯て 風は白き帆をはらみ 朝まだきの蒼穹へ 船影は静かに昇る 遥か地上 照らす朝の光 霞の底で きらめいて 草原を渡る 翠のさざなみ 花冠を結んだ 小さき手 丘のふもとの 石積みの村 軒辺には 昨日と同じ 炊ぎの香り 旅立つ船を追いながら ひとりの幼子が いつまでも 手を振っていた ああ 名も知らぬ花よ 路傍の泉よ 我らが過ぎし 幾千の景色を どうか 忘れずにいて 風よ この翼を運べ 雲の彼方 まだ見ぬ空へ されど我が心は 青き丘に 光る川に 夕餉の煙たなびく 小さき村に 今もなお 帰りゆく 雪嶺に眠る 白銀の月 森深く 雨を抱いた古樹 潮騒に揺れる 港町 石畳を染めた 祭り灯も 名もなき歌を 共に口ずさみ 夜の果てまで 笑いあった そのひとつひとつが 星のごとく 胸に灯る 遠ざかるほど 鮮やかになるもの 失くして初めて 名を知るもの 誰かが呼んだ 懐かしき声 風よ この翼を運べ 蒼穹の涯て 光の彼方へ されど我が祈りは 麦の波に 森の梢に 小さく咲く笑い声に 今もなお 降りそそぐ 雲より高く 昇りゆけば 世界は 掌に眠るほど 小さく見えた けれど あの村では 今もかまどに火が踊り あの幼子もきっと 新しい空を 見上げているだろう 風よ どうか伝えて 名もなき花 名もなき歌 小さき灯火を 手を振る あの姿を 風よ この翼を運べ 幾重の雲を 越えてゆけ 青き丘 光る川 夕映えの村 潮騒の街も 我らが巡りし すべての地よ いつの日か 遠き記憶となれど 朝はまた 世界を照らす ああ かくも美しき 世界が続くよう 銀の翼よ どこまでも飛んでいけ

