
雨の口
[Verse 1] 古きみづみち 石は夜をふくむ 切りそろへたる髪に 灯の影沈む 目の端の水は なほぬるきまま 泣くにあらず 満ちたるのみ [Verse 2] 名を夜に 落としたまふな 拾ふ指先 少し冷えたり 胸のにごりは 底へゆきなむ さわがぬままに 藻のごとく [Chorus 1] 忘れものは 水の底にて なほ息づけり うす月は 鱗のごとく 揺らぎをり 乾けるこころ ひびにはあらず 白くひらける 雨の口 そこにとどまり なほ沈めよ 濡れたる石なら 朝まで持てり [melodic interlude] [Verse 3] 朝まだきには 暗渠青鳴り ちひさき喉の音 霧をほどきぬ 切り過ぎし髪は 水の迷へば 今宵ばかりは そのままにせよ [Verse 4] かなしきことは 申さずてよし 足の冷えにて おほかたは知る 契りはみな 水面に浮きて 強く触るれば 先より切るる [Chorus 2] 忘れものは 水の底にて なほ息づけり 琥珀の波は まばたきのごと 寄せくる 乾ける胸は 殻めきて 雨の口のみ 先にひらく ここに置きて まだ見そな 濡れたる影は ほどけて返る [Bridge] 日の強き道には 少し黙して 乾ける風には 目を細むる されど雨の香の 来たる折には 石の眠りを ひとつ越ゆなり 三つ数へなば 水を見よ 今日ばかりは 名を沈むな [Chorus 3] 忘れものは 水の底にて なほ息づけり 薄明かりは 葦の末まで 撫でてゆく こぼるる水は 傷にはあらず 波紋の数のみ 朝を呼ぶ そこに黙して 輪を見てゐよ 濡れたる影より 脚は生ひいづ [Outro] 古きみづみちに やはら灯ともり 切りそろへたる影 水面にほどく 現代語訳 [Verse 1] 古い水路で 石が夜を含む 切りそろえた髪に 街灯が沈む 目のふちの水は まだぬるいまま 泣いたわけじゃない 満ちただけ [Verse 2] 名前を夜に 落とさないで ひろう指先が 少し冷える 胸のにごりは 底へ行けるよ さわがないまま 藻みたいに [Chorus 1] 忘れものは みずの底で息をする 薄い月が 鱗みたいに揺れている 乾いたこころは ひびじゃない 白くひらいた 雨の口 そこで止まって まだ沈めて ぬれた石なら 朝まで持てる [melodic interlude] [Verse 3] 朝の手前で 暗渠が青鳴り 小さい喉が 霧をほどく 切りすぎた髪は 水が迷う だから今夜は そのままで [Verse 4] かなしいことは 言わなくていい 足首の冷えで だいたいわかる 約束はみな 水面に浮いて 強く触れると 先から切れる [Chorus 2] 忘れものは みずの底で息をする 琥珀の波が まばたきみたいに寄る かわいた胸は 殻みたい 雨の口だけ 先にひらく ここへ置いて まだ見ないで ぬれた影なら ほどけて戻る [Bridge] 陽のきつい道では 少し黙る 乾いた風には 目を細める それでも雨の匂いが来れば 石の眠りを ひとつ越える 三つ数えたら 水を見て きょうは名前を 沈めないで [Chorus 3] 忘れものは みずの底で息をする 薄明かりが 葦の先まで撫でてゆく こぼれた水は 傷じゃない 波紋の数だけ 朝を呼ぶ そこで黙って 輪を見ていて ぬれた影から 足が生えてく [Outro] 古い水路に やわい灯り 切りそろえた影が 水面にほどける

