最初は十人 笑っていた 見慣れた電車 いつもの帰り道 誰も知らなかった この夜に 終点なんてないことを 車内の時計が 止まった瞬間 窓の外から 知らない駅名 赤い文字で ひとつだけ 「きさらぎ駅」 誰かが笑った 「こんな駅、知らないよ」 でも―― 扉はもう 開いていた --- 【一番】 十人いたはずの 帰り道 十人分の声が 響いていた 一人がホームへ降りて 「ちょっと見てくる」と笑った 五分後―― 戻ってこなかった 九人になった。 --- 【二番】 九人で名前を 呼び続ける 返事の代わりに 遠くでベルが鳴る 線路の向こう 白い影が揺れている 「あそこにいる」 そう言った二人目が 暗闇へ歩いていった 誰も追えなかった 八人になった。 --- 【サビ】 きさらぎ きさらぎ どうして数が減ってゆく 十人だった はずなのに 今は八人 声がする きさらぎ きさらぎ 帰りの電車は まだ来ない 仲間の名前を 呼ぶたびに 夜がひとつ 増えていく 「次は誰?」 --- 【三番】 七人 六人 名前を呼ぶほど 減っていく 一人はトンネルへ 一人は踏切の向こうへ 一人は振り返った瞬間 まるで最初から そこにいなかったように 消えていた 残った者たちは もう誰も 喋らない --- 【Bメロ】 五人。 「絶対に離れないで」 四人。 「手を繋いでいよう」 三人。 「誰かが後ろにいる」 振り返る。 ――誰もいない。 それでも 足音だけが 三人分。 --- 【二度目のサビ】 きさらぎ きさらぎ どうして僕らを 呼ぶの 十人だった 帰り道 今は三人 震えてる きさらぎ きさらぎ 出口はどこにも 見えない 地図を開けば 真っ白で 現在地だけが 笑ってる そして駅の放送が 「まもなく――」 途切れた。 --- 【Cメロ】 二人。 「もう走ろう」 一人。 「待って、置いていかないで」 振り返ったら さっきまで隣にいた人が いない。 名前を叫ぶ。 返事はない。 代わりに 駅のスピーカーから その人の声がした。 「まだ一人じゃないよ」 --- 【ラスサビ】 きさらぎ きさらぎ 最後の一人になっていた 十人分の思い出が 闇の中で 蘇る 笑い声も 約束も くだらない会話も 全部 全部 この駅に置いてきた きさらぎ きさらぎ 目の前に電車が止まる 扉が開いて 車内を見ると 誰もいないはずなのに―― 十人分の席だけが 綺麗に空いていた。 --- 【アウトロ】 「お乗りください」 知らない声がする。 一歩。 また一歩。 ホームへ戻る。 すると―― 電車の窓に 十人の姿が映っていた。 笑っている。 手を振っている。 でも、その中にいる自分だけが こちらを見ていなかった。 発車ベル。 扉が閉まる。 最後に駅名が 暗闇の中で浮かぶ。 きさらぎ駅。 そして翌朝。 誰もいないホームに 十人分の影だけが 残っていた。


