
九時を回った 書類が霞む 眼鏡を外して 眉間を押さえた 同じ痛み 同じ壁 同じ蛍光灯 二時間前の鎮痛剤は 今夜も意味がない 帰っていい 大丈夫だからと なのに君はいつも 帰ろうとしない 笑いながら 妙なことを言った キスで頭痛が治るらしい と 馬鹿なことを言うな ——なのに なぜ腕を引いた 薬だと呼べばいい 治療だと名前をつければ 科学的な作用 一瞬の鎮痛にすぎない だが一度ごとに この手が震えてる 治したい痛みは もう頭の中じゃない もう一度だけ そう言い聞かせた 何度目かなんて とっくに数えてない 火曜の夜 また痛みが来た 少し笑った——君を呼べると思って 緩めたネクタイ 唇にコーヒーの味 まるで命懸けみたいに 距離を詰めていく 君の唇なんか 見ていない 痛みを待ってなんか いない だが君のいない部屋の 静けさだけは 頭痛とは違う場所が 痛む 治療だと言った それ以上じゃないと なのに回数を数えてるのは 俺の方だ 薬だと呼べばいい 治療だと名前をつければ 科学的な作用 一瞬の鎮痛にすぎない だが一度ごとに この手が震えてる 治したい痛みは もう頭の中じゃない もう少しだけ もうやめると誓う だがその言葉は 舌の上で溶ける 論理と証拠で 生きてきたはずだ なら診断名は何だ 原因が君なら どんな法廷にも どんな書面にも 君の笑い方への 答弁は載ってない もう薬とは呼ばない わかってる これが何か 頭痛は消えた それでも くちびるが欲しい 手は止まった だが 脈が言うことを聞かない 痛いのはひとつだけ 認めた真実だけ もう一度だけ——いや もうその嘘はやめる だって九回目で とっくに壊れていた 痛みは静かになった それでも俺はここにいる このデスクで 君を待っている ……治すべきだったのは 頭痛じゃなかったらしい

