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■ 第5話 最重要機密部隊IBO 「焦り」

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V5.5

■第5話「焦り」 3ヶ月が経った──。 7月半ばだ。 蝉が鳴く。 早朝のグラウンド。 結人の走る音。 荒い息遣い。 『筋力必須だ』 そのひと言で 早朝トレーニングが始まった。 一定のペースで走る、灰谷。 それに、 追い付こうと 食らい付く結人。 呼吸が浅く、 乱れる。 「灰谷……さん、速すぎっ、」 「……速くない」 「オレ、周回遅れ」 「気にするな。 一定で走れ」 「一定……って……」 息が、乱れる… つい、焦る。 まだまだ…… その背中に 追い付かない。 いつも「そこ」に居るのに、 常に、先に居る。 ーー遠い。 ーー汗をぬぐい、 ペットボトルを飲み干し、 グラウンドを後にした。 先に仕込み場に入る灰谷。 温湿度表示をチェック。 指先で粉を 少し触る 。 作業員が 集まってきた。 大分、 馴染んできたが、 まだ挨拶を交わす程度。 結人も 作業準備をする。 作業台には、 粉と塩水。 灰谷が隣で 始めてる。 目の前の粉。 山の 中央くぼみに 塩水を数回わけいれ、 外側から混ぜ込む。 手順は大丈夫だ。 ちゃんと、覚えた。 ーー結人は 『仕込み』を終え、 『練り』の行程に入っていた。 水と粉が混ざり合い、 手に絡む。 纏わりつくねばねばが 気持ち悪い。 手の生地を 取り除こうとすると、 灰谷、 「戻せ」のひと言。 結人が止まる。 手を見る。 まだ纏まりきれてない、 柔らかい塊。 灰谷は それ以上言わない。 そっと、 生地へ押し戻す。 生地に…… 僅かな温度が残ってる…。 呼吸を整える。 生地全体に水分を 行き渡らせるように 纏め…… 押す。 戻る、 押す。 繰り返す……。 昨日より少しだけ、 表面がなめらか、か……? 押す、 素直に戻る。 手が止まる。 僅かな手応え。 『正解』なのか……? 灰谷は無言。 結人がもう一度、試す。 ぐっと、押す…… ……え……戻らない。 僅かに焦る。 押す。 バラける。 再現……できない。 「止まるな。続けろ」 「……はい」 隣にいる灰谷の 生地を見る。 自分の手元を見る。 何か、違う…… どうすれば、 『正解』なんだ……? ーーいつの間にか、 昼休憩になった。 外に目をやる。 箸が止まる。 夏の日差しが容赦ない。 視界のすみに、 先輩のうしろ姿。 先にはトレーニング棟。 皆、積み重ねか…… 休憩あけ、 結人がさっきのミスを 思い出しつつ、 腕に力を入れ、 押しはじめる。 『急げば……間に合うはず』 「触るな。」 灰谷が止めた。 「でも……纏まってます。」 表面は整って見える。 「まだだ。」 「でも、」 手を止めなかった。 繰り返し、 押す。 生地が…………戻らない……。 灰谷が、 生地を触る。 「……固い。」 「え……どうすれば……」 「破棄だ」 ……破棄……? 垂れた頭を上げられない。 『破棄』って……、 自分は何をしてんだ… 「固くなった生地は 戻らない。社食行きだ。 次、始めろ」 「……はい」 自己判断も過信も、 ミスに繋がる…… 失敗の空気のまま 1日の作業が終わった。 作業台を片付け、 隅々を吹き上げてると、 先輩の会話が耳に届く。 「来月の新機種入るって言ってたな」 「性能とかは?」 「今よりスピード上がって質感も良くなるって」 「え、マズくない?」 手が止まる結人。 「機械化で仕事なくなったらヤバイじゃん。ハハ」 「笑い事じゃないでしょ」 ーーえ、 ……機械化? 灰谷を見る。 無反応だ。 その時、扉の開く音。 振り返る。 スーツ姿の 小太りの中年の男。 「作業は終わりかな?」 全体を見渡し続ける。 「噂は聞いてるかもしれんが、 製造部に新機種が入る。 今週末お披露目会があるので IBO隊も参加して貰うのでよろしくたのむ。」 「え、僕達には関係ないのでは?」 先輩の1人が言う。 「直接は関係ないが、 技術の進歩を知った上で 今後の話しでも、と。」 嫌味な口元。 「わかりました」 灰谷が返事を置く。 「では、待ってるよ」 上機嫌で出ていく。 「絶体、嫌がらせだよな」 先輩が言う。 ーー正解を掴めない自分に、 機械化が追い打ちを かけてるようで…… 色んな感情が混ざる。 「あの……今日は、勝手な判断して すいませんでした」 自分の『履き違え』が、 失敗の原因で。 灰谷の顔が見れない。 「……触りすぎだ」 「……はい」 「焦ると、生地は、逃げる」 その背中には、 まだ、届きそうもない。 つづく