[イントロ — 雨音/低いピアノ] ハマの夜は、 昨日より少しだけ寒かった。 あの写真を見つけてから、 三日。 アタイは眠れてない。 ……探偵ってのはさ、 事件が終われば眠れる仕事だと思ってた。 甘かったねぇ。 私立探偵―― 濱グリコ。 そして今夜、 アタイの前に現れたのは…… どう見ても、 小学生だった。 「アンタ、誰だい?」 少年は眼鏡を押し上げる。 「神崎レイ。十一歳。」 ……十一歳? 「帰りな。ここは子供の来る場所じゃないよ。」 「それは困ります。」 少年は一枚の写真を、 机の上に置いた。 「僕は、その写真について話しに来ました。」 ……また、あの写真か。 [ヴァース1] 「その写真、 あなたが持ってるものと同じです。」 少年の指が、 写真の端を指した。 そこには、 小さな傷があった。 アタイは知らなかった。 「この傷…… 裏側に数字が書いてあります。」 「……何?」 写真をひっくり返す。 雨で滲んだような文字。 「17―04―98。」 レイは静かに言った。 「これは日付じゃない。」 「事件番号です。」 ……事件番号? 古い警察記録を調べる。 存在しない。 いや―― 正確には、 「存在しないことになっている。」 レイが笑った。 「だから、僕が調べました。」 「アンタ…… 本当に十一歳かい?」 「よく言われます。」 ……可愛げのないガキだねぇ。 [プレコーラス] そして、 レイは一枚の古い新聞を取り出した。 そこに写っていたのは―― あの女。 写真の中で、 幼いアタイの隣にいた女。 「この人を知っていますか?」 「……知らない。」 そう答えた瞬間、 レイの表情が変わった。 「嘘です。」 「……何だって?」 「あなたは、 この人の顔を見た瞬間、 右手を握りました。」 ……。 「無意識に。」 「人は、 忘れた記憶に触れた時だけ、 そういう反応をすることがあります。」 ガキのくせに…… 痛いところを突くじゃないか。 [コーラス] 誰なんだい? あの女は誰なんだ? そして、 アタイは誰なんだ? 「濱グリコ」 その名前を呼ぶたび、 胸の奥で 何かが軋む。 レイは言った。 「濱グリコは、 あなたの本当の名前じゃありません。」 ……やめろ。 その先を言うな。 「あなたの本当の名前は――」 その瞬間、 窓ガラスが割れた。 銃声。 「伏せて!」 レイに腕を引かれる。 床に倒れ込むアタイ。 そして、 窓の向こうには―― 黒い傘。 雨の中へ消えていく人影。 ……まただ。 あの夜と同じ。 [ヴァース2] 翌朝。 レイは何事もなかったように、 事務所で菓子を食べていた。 「アンタさぁ…… 怖くないのかい?」 「怖いですよ。」 「じゃあ、なんで来た?」 少年は、 少しだけ黙った。 「僕の父も、 この事件を調べていたからです。」 ……父親? 「十年前、 僕の父は刑事でした。」 「そして、 この事件の記録を追っていました。」 でも、 「突然、辞めました。」 レイは一枚の古い手帳を開く。 最後のページ。 そこには―― たった一行。 「グリコを見つけた。」 ……。 アタイの名前。 まだ、 濱グリコじゃなかった頃の名前。 [プレコーラス2] 記憶が戻り始める。 雨。 サイレン。 黒い車。 誰かの手。 そして―― 「走って!」 女の声。 あの女だ。 「振り返っちゃダメ!」 幼いアタイは、 その手を握っていた。 そして、 黒い車が突っ込んできた。 誰かが倒れた。 誰かが叫んだ。 そのあと―― 全部が消えた。 [コーラス2] 母さんじゃない。 あの女は…… アタイの姉だった。 ずっと昔に、 死んだと思っていた女。 だけど違った。 彼女は、 アタイを守るために 自分の名前を捨てた。 そしてアタイも、 別の名前を与えられた。 「濱グリコ。」 それが、 アタイの人生になった。 でも、なぜ? なぜそこまでして、 アタイを隠した? レイが答える。 「あなたは、 あの事件の唯一の生存者だったんです。」 ……。 「そして、 あなたは事件を見ていた。」 [ブリッジ — 静かに] 「何を見たの?」 レイは答えなかった。 代わりに、 古い写真を差し出した。 そこには―― 幼いアタイ。 姉。 そして、 もう一人の男。 ……男の顔だけが、 黒く塗り潰されている。 「この人は誰だい?」 「まだ分かりません。」 「まだ?」 「でも、 あなたが探偵になった理由なら分かります。」 「……何?」 レイはアタイを見る。 「あなたは、 真実を探したかったんじゃない。」 「誰かを、 探していたんです。」 ……。 「幼い頃に、 あなたを守ってくれた人を。」 胸が痛む。 そうだった。 アタイは事件を解決したかったんじゃない。 誰かを待っていた。 いつか、 あの雨の夜に 消えてしまった誰かが、 戻ってくると信じていた。 だから―― 探偵になった。 [ラストコーラス] だからアタイは、 探偵になった。 失ったものを、 見つけるために。 消された名前を、 取り戻すために。 誰かの嘘を暴くたび、 自分の過去に 一歩近づいていた。 でも、 もし真実の先にいるのが、 あの日、 アタイを捨てた人間だったら? もし―― アタイが信じていた 「家族」が、 全部嘘だったら? レイが立ち上がる。 「濱さん。」 「……何だい?」 「次に探すべき場所が分かりました。」 「どこ?」 少年は、 古い地図を広げる。 そこには―― 横浜港。 そして赤い丸。 「あなたが消された夜、 最後に目撃された場所です。」 ……。 アタイは煙草を消した。 「行くよ、レイ。」 「はい。」 「ただし――」 アタイは振り返る。 「アタイより先に 真実を見つけるんじゃないよ。」 レイは笑う。 「それは無理かもしれません。」 「……生意気なガキだねぇ。」 「探偵ですから。」 ……ったく。 十一歳の探偵と、 過去を失った私立探偵。 最悪のコンビが、 今夜、結成された。 [アウトロ — 雨/サックス] 濱の夜は長い。 事件はまだ終わってない。 いや―― 本当の事件は、 今、 始まったばかりだ。 私立探偵―― 濱グリコ。 そして、 神崎レイ。 二人が追うのは、 ひとつの事件。 ひとつの家族。 そして―― 消された、 本当の名前。 「……行くよ。」 「はい、濱グリコさん。」 その名前を聞いた瞬間、 なぜか胸が痛んだ。 ……まるで、 誰かが昔、 同じ名前を呼んでいたように。 [ラスト — 囁き] 「濱グリコ……」 「それは本当に、 アタイの名前なのかい?」 ――To Be Continued.


