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『梅の花が散る前に』

V6-WILD

家から家へ 名を替えられ 季節のたびに 結び紐も替わる 娘はただ 微笑み頭を垂れる 殿方に 理由など要らぬ 初めの男は 川辺に銀を携え 幼きこの手を 美しいと褒めた その夜 母を冷たく置き去りにし 己の企みを この身に刻んだ 梅の花 散らぬ間に 摘めよ 摘めよ 一輪残らず 美しきものは 春を待たず 夜明けを待たず 消えゆくもの 梅の花 散らぬ間に 枝を離れよ 枝を捨てよ 枯れゆく花を 残すより この手に花びらを 抱きしめよ 初めは幼き袖を着せられ 背丈が伸びれば 絹を纏った 男は名を選び 盃を選び 座敷を選んで すべてを買った 優しく触れる手もあれば 白粉の下に 青痣を残す手も 天井の梁を ひとつずつ数え 夜ごと この身を消していた 夜が明ければ 髪を結い 頬には深き 紅を差す 褥の上で 何をされようと 帯がすべての 痕を隠した 梅の花 散らぬ間に 摘めよ 摘めよ 一輪残らず 酒を注げよ 三味を鳴らせ 終わりの時には 微笑めよ 梅の花 散らぬ間に なぜと問うては ならぬもの 男は銭を払い 花を愛で 男は銭を払い 涙を求める ああ―― 咲けよ 咲けよ 散れよ 散れよ 大橋は教えた 三味の調べ 美しさが人を従わせる術を 眉をひとつ上げれば 座敷は静まり 扇ひと振りで 男は去った やがて男が訪れるたび 値を告げ 酒を選び 褥を選んだ 選べることが 危うく思わせた あの幼き娘は もう死んだのだと されど優しき手に触れられると 古き戸の 閉ざされる音がする 男が「ここにいろ」と囁けば 川辺の薔薇が また香り立つ ならば美しきものは 壊さねば 奪われるよりも 先に壊さねば 冷たき言葉 空の褥 その報いを 知るまでなど 待ちはせぬ 梅の花 散らぬ間に 摘めよ 摘めよ 一輪残らず 落ちる前に 花瓶を砕け 捨てられる前に 立ち去れよ 梅の花 散らぬ間に 誰にも見せては ならぬもの 要らぬと誓った そのぬくもりを どれほど焦がれて 求めるか 絹を与えよ 糸を断とう 酒を与えよ 盃を倒そう 安らぎの眠りを 与えるならば 起き上がる理由を 探し出そう 愛していると そっと囁け 私は微笑み 嘘だと言おう この名を初めて 愛でた男こそ 愛など偽りと 教えたのだから ああ―― 梅よ 梅よ 白き梅よ 梅の花は散る 必ず散る 春など 待ちはせぬ この手で枝を 揺さぶろう 咲けよ 咲けよ 散れよ 散れよ ああ―― この手で この手で 何もかも 散らしてしまえ。