川面に並んだ 小さな火の列 誰かの名前を抱えて ゆっくり夜へ流れていく 綺麗だねって 誰かが言った 紙で作った身体に 細い灯りを乗せられて 「行ってらっしゃい」と押し出された 戻らないための水の上 隣の灯籠は まっすぐ流れていく 俺も同じように 遠くへ行くはずだった 途中で 紙が水を吸った 滲んだ文字が 徐々に読み取れなくなり 名前から先に 沈んでいった 海まで行かなくていい 彼岸まで届かなくていい 火が消えるなら 此処でいい 誰にも拾われない 暗い川底で 流れきれなかった灯りのまま 泥に埋もれていたい 岸辺ではまだ 人が手を合わせてる さよならを綺麗な形にして 満足そうに見送ってる 俺の灯籠だけ もう見えなくなっても 流れたことにして 忘れてくれればいい 送り火も 祈りの手も いらない 最後まで見届けるなんて そんな優しさもいらない 水の底なら もう誰にも見つからない 海まで行けなくていい 彼岸まで届かなくていい 火が消えるなら 此処でいい 名前も形も 水に揺蕩い 流れきれなかった灯り 淀み 沈み 静かに  上ではまだ 灯りが流れてくる 赤く 赤く 揺れながら 俺だけが 水の底から見ている 遠ざかっていく光を 追わない 呼ばない 戻らない 沈んだままで やっと静かになれる 海まで行けなくていい 彼岸まで届かなくていい 送り届けられなくても それでいい 誰かの記憶から 剥がれ落ちても 流れきれなかった灯りのまま 夜の底に沈んでいく 火はもう消えた 名前も滲んだ それでも川だけは 何も知らずに流れていく 岸から見えない場所で 灯籠がひとつ沈んでる 誰にも気づかれないまま それでいい それがいい