
海の果て 風の町に 灯台がひとつ 立っていた 毎晩欠かさず ともる光は 誰かを待つように ゆれていた その灯りが語るのは かつて街を襲った夜に 離れた小さな手が行き着いた ささやかな幸せの物語 幼い手が 離れた夜 人々の泣き叫ぶ声 鉄錆のにおい 僕は名を呼びながら 闇を駆けた 生きていてくれ 生きていてくれ ただただ心で繰り返し 僕は灯台の下で拾われて 優しい海の守り手に育てられた 時は過ぎて 小さなあの手はまだ見つからない 今はこうして 闇夜を照らしている あたたかいあの人と同じように ある日 遠くの海の上 働く青年の姿を見た 母によく似た銀の髪 何度も見た 左目のほくろ 胸が鳴った―― あの日離れた 小さな手 嵐の夜も 風が泣く夜も 灯を消さずに 待ち続けた 船が揺れても 波が荒れても その船だけは 守りたかった 遠くに映る その姿を 紙に写して そっと微笑んだ 生きていた 生きていてくれた ただそれだけでそれだけで 僕は十分幸せだった 名も知らぬ この灯台に なぜか あたたかさを感じる 闇に迷うたび その光に 何度 救われただろうか いつか会って 伝えたいんだ ありがとうを この胸から 時は流れ 船乗りは船を降りた 長きに渡る礼を伝えに灯台を登る けれど 航路を照らした守り手は すでに帰らぬ人となり 静かに 絵だけが残されていた 描かれていたのは 笑顔の数々 そして静かな言葉 「親愛なる弟に 幸あらんことを」 海の果て 風の町 灯台がひとつ 立っている 今夜も静かに 光はゆれる ただひとつの 愛のうた

