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うみねこ

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V4.5-ALL

キャンプ場の受付で 「鳥ですか?」って聞かれた 「猫です」と答えたのに 名簿には「猫・自己申告」 重い荷物を半分持って 「重いでしょ」って微笑む君 優しい手が触れた瞬間 脳内で鐘が鳴った 同じコテージって聞いただけで 二人で迎える朝を 想像して 壁一枚の向こうに 未来が広がっていく 君と眺める 夏の大三角 「聞いてる?」って振り返る君 「聞いてる。お父さん」って口が滑って 新しい星座ができちゃった 虫よけ三本は「家族分」 「家族?」って聞かれたから 「虫の家族」って誤魔化し しっぽが正直に膨らむ 朝のコーヒー 夫婦みたい 「眠れた?」って聞かれたから 「子どもの名前も決まった」って 言っちゃった、完全に! 好きだから止まらなくて 二十年先まで走ってた 「その子猫たち、俺と うみねこの子?」 違う!違わない! どっち? 「未来!まだ確定してないだけ!」 ずっと好きでした 老後はまだ考えてないけど 「昨日一日で人生進んだね」って 君も少し笑った 「付き合うところからでいい?」 手を握られてうなずいた 子猫の名前は気に入ってるって 住宅ローン審査、再開中 「将来的には家族が増える予定です」 「まだ付き合って三時間!」 でも名簿には「繁殖計画あり」 夏のキャンプは爽やかに終わった うみねこの 人生だけ 二十年ほど 先まで進んでいた… --- 【原作ストーリー】(長い) 「子どもの名前まで決まりました」 海ねこは、海が好きな猫である。 鳥ではない。 キャンプ場の受付で、係員いぬに聞かれた。 「ウミネコさんは、鳥類用サイトでよろしいですか?」 「猫です」 「でも名前が」 「海が好きな猫です」 「鳴き声は?」 「にゃあ」 係員いぬは名簿に書き込んだ。 『海ねこ・自己申告では猫』 「疑わないでください」 ⸻ 今回のキャンプには、友ねこたちのほかに、海ねこがずっと好きな想いねこも来ていた。 想いねこは、穏やかで優しい雄猫だった。 荷物の重い海ねこを見つけると、自然に半分持ってくれる。 「これ、俺が持つよ」 「えっ、いいの?」 「うん。重いでしょ」 海ねこは礼を言いながら思った。 ――優しい。 ――荷物を分け合う。 ――これは、人生を分け合う暗喩では? 友ねこが横から言った。 「キャンプ用品を持っただけだよ」 「心を読まないで」 ⸻ 夕方。 みんなでテントとコテージの部屋割りを決めることになった。 幹事ねこが名簿を見る。 「女子部屋が一つ足りないな」 海ねこは少し緊張した。 幹事ねこは続けた。 「海ねこは、想いねこと同じコテージでいい?」 海ねこの脳内で、鐘が鳴った。 カーン。 ――同じコテージ。 ――同じ屋根。 ――朝、目が覚めたら好きな雄猫がいる。 ――生活。 ――同棲。 ――結婚。 ――住宅ローン。 ――子どもは二匹。 ――上の子は潮。 ――下の子は凪。 友ねこが海ねこの顔をのぞき込んだ。 「まだ返事してないよ」 海ねこは我に返った。 「大丈夫です!」 声が裏返った。 想いねこが言った。 「部屋は別々だから安心して」 海ねこの頭の中で、住宅ローンが一度消えた。 「……そうだよね」 友ねこが小声で言った。 「落胆が露骨」 ⸻ 夕食はバーベキューだった。 想いねこが焼いた肉を、海ねこの皿へ置く。 「これ、焼けてるよ」 「ありがとう」 ――食事を用意してくれる。 ――家庭的。 ――潮は運動が得意そう。 ――凪は本が好きかな。 友ねこが隣で肉を食べながら聞いた。 「今どこまで行った?」 「小学校の入学式」 「肉一枚で?」 「想像力を侮らないで」 ⸻ 食後。 みんなで星を見た。 想いねこが夜空を指さす。 「あれ、夏の大三角」 海ねこは横顔を見つめた。 ――子どもに星を教える父親。 ――潮、ちゃんと見て。 ――凪、走らないの。 ――お父さんの話を聞きなさい。 想いねこが振り返った。 「聞いてる?」 海ねこは慌てて答えた。 「聞いてる。お父さん」 沈黙。 想いねこが首をかしげる。 「誰が?」 「星のお父さん」 友ねこが離れたところで腹を抱えた。 「新しい星座を作らないで」 ⸻ 夜。 海ねこは自分の部屋で、なかなか眠れなかった。 壁の向こうには想いねこがいる。 たった一枚の壁。 しかし海ねこの妄想では、すでに壁紙の色まで相談していた。 ――白がいいかな。 ――子ども部屋は明るい色。 ――潮と凪が喧嘩したら、想いねこが優しく止めて…… コンコン。 ドアが鳴った。 海ねこは飛び起きた。 「はい!」 想いねこが顔を出した。 「ごめん。虫除け、余ってない?」 「あります!」 海ねこは虫除けを三本差し出した。 「こんなに?」 「家族分」 「家族?」 「虫の」 想いねこは少し考えた。 「虫にも家族いるもんね」 「そういう理解でお願いします」 ⸻ 翌朝。 海ねこが外へ出ると、想いねこがコーヒーを淹れていた。 「飲む?」 「飲む」 二匹でベンチに座る。 朝の森は涼しく、空気は澄んでいた。 海ねこは思った。 ――朝、一緒にコーヒー。 ――もう夫婦では? 想いねこが聞いた。 「昨日、眠れた?」 「うん。子どもの名前も決まった」 想いねこがコーヒーを吹いた。 「子ども?」 海ねこは固まった。 言った。 完全に言った。 友ねこが遠くでパンを落とした。 海ねこは必死に修正した。 「将来、猫を飼ったときの!」 想いねこが言った。 「俺たち猫だけど?」 「小さい猫!」 「子猫?」 「そう!」 「名前は?」 逃げ道が消えた。 海ねこは小さな声で答えた。 「潮と凪」 想いねこは少し黙った。 「二匹いるんだ」 「想定では」 「雄と雌?」 「上が雄で、下が雌」 「性格は?」 「潮はあなたに似て優しくて、凪は私に似て――」 海ねこは口を押さえた。 想いねこは固まった。 友ねこは木の陰でしゃがみ込んだ。 「全部言った……」 ⸻ 朝の森が静まり返る。 想いねこが尋ねた。 「その子猫たち、俺と海ねこの子?」 海ねこのしっぽが最大まで膨らんだ。 「違う!」 想いねこの耳が下がる。 「違うんだ」 「違わない!」 「どっち?」 「未来!」 「未来?」 「まだ確定してないだけ!」 海ねこは頭を抱えた。 「私はただ、同じコテージって聞いて、少し先のことを考えただけで!」 「少し先?」 友ねこが木の陰から言った。 「小学校の入学式まで行ってたよ」 「出てこないで!」 想いねこは海ねこを見る。 「昨日から、そんなこと考えてたの?」 海ねこは観念した。 「……好きだから」 想いねこの目が丸くなる。 海ねこはもう止まれなかった。 「ずっと好きでした。同じ部屋だと思って舞い上がりました。部屋は別でした。肉をもらって結婚しました。星を教えてもらって父親になりました。虫除けで家族が増えました」 想いねこは聞いた。 「俺、昨日一日でかなり人生進んだね」 「私の中では」 「老後は?」 「まだ」 「そこは慎重なんだ」 ⸻ 想いねこは少し笑った。 「俺も、海ねこのこと好きだよ」 海ねこが止まる。 「……いつから?」 「このキャンプより前から」 「じゃあ、なんで言わなかったの?」 「海ねこ、俺を見るたび急に遠くを見るから」 「未来を見てた」 「思ったより遠かった」 想いねこは、海ねこの手を握った。 「まずは付き合うところからでいい?」 海ねこはうなずいた。 「はい」 「潮と凪は?」 「保留」 「名前は気に入ってるけど」 海ねこが顔を上げる。 「気に入ってるの?」 「うん」 海ねこの妄想の中で、住宅ローン審査が再開した。 想いねこがすぐに言った。 「今、また先に行ったでしょ」 「玄関を選んでた」 「戻ってきて」 ⸻ 帰りの受付。 係員いぬが名簿を確認した。 「ウミネコさん、鳥類サイトはいかがでしたか?」 「猫です」 想いねこが隣から言った。 「将来的には家族が増える予定です」 海ねこは真っ赤になった。 「まだ付き合って三時間!」 友ねこは荷物を持ちながら言った。 「子どもの名前は昨日から決まってるけどね」 係員いぬは名簿へ追記した。 『海ねこ・猫。繁殖計画あり』 「書かないでください!」 夏のキャンプは爽やかに終わった。 海ねこの人生だけ、 二十年ほど先まで進んでいた。