季節はめぐる 静かな夜 月あかりは一週間まえの 幻 湿った空気が 震えながら 囁く 雨が止む 真夜中の2時 冷えきった薬指の 陰 震えた身体を きつく抱き寄せて 口付け もう 戻らない 季節はめぐる 遠い記憶と濡れたTシャツ 今宵は朝まで 止まった時間 巻き戻す 雨上がりのアスファルトから立ち上る、夏の匂い。 窓を少しだけ開けると、ぬるい夜風が部屋の空気をかき混ぜた。 さっきまでの静寂が嘘のように、遠くで始発の電車の音がかすかに響き始める。 「ねえ、本当に巻き戻せると思う?」 あなたの胸に顔を埋めたまま、彼女が消え入りそうな声で呟いた。 濡れたTシャツは肌に張り付いたままで、お互いの体温だけが、そこが世界の中心であると主張している。 冷えきっていたはずの薬指は、いつの間にか熱を帯びていた。 外した指輪の跡が、月の光に照らされて、かすかな白い線となって浮かび上がっている。それはまるで、二人が過ごした「空白の時間」の象徴のようだった。 「巻き戻すんじゃないさ」 あなたは彼女の濡れた髪をそっと掻き揚げ、その額に優しく触れた。 「新しく塗り替えるんだ。あの頃の続きじゃなくて、今の俺たちの物語を」 言葉は、時に残酷で、時に魔法になる。 真夜中の2時を過ぎ、東の空がゆっくりと、濃い藍色から薄紫へと移り変わっていく。 止まっていた時間が、秒針の音を刻み始める。 彼女はふっと微笑むと、あなたの腕からすり抜けて立ち上がった。 窓辺に歩み寄り、まだ薄暗い街並みを見下ろすその背中は、どこか儚く、それでいて強い決意を秘めているように見えた。 「朝が来ちゃうね」 「来ればいいさ。もう、どこにも逃げないから」 めぐる季節の真ん中で、二人はもう一度、手を取り合う。 今度は離さないように、強く、強く。


