青き瓶 夏を閉じ込めし器 その中に眠るは 泡立つ魔獣 縁日の灯りが 夜に揺れていた 浴衣の袖を押さえ 私はそれを見下ろした よく冷えた瓶ラムネ 涼しげな顔で この夏で一番 手強そうに立っていた 開けられる? なんて 隣で誰かが笑う 大丈夫と笑った その時 戦は始まった 封印されし外装を解く 現れしは 浮き上がったピンクの栓 この下に眠るは 炭酸の魔獣 素人が開ければ 手も食われる 「娘さん そいつはただのラムネじゃない 気を抜くな ビー玉は門番だ 押せ だが焦るな 夏は 甘い顔で牙をむく」 ラムネ ラムネ 青き瓶の魔獣よ 細い指先で 封印に触れた ラムネ ラムネ 笑うなビー玉よ この手のひらが 赤く染まっても 押せ 落とせ その門を開け ポンと鳴るまで 帰れない 付属の玉押しを そっと手に取った これ向き合ってるよね たぶん合ってるよね 手のひらに当てて 静かに息を止める 周りの視線が やけに重くなる 押しても落ちない 祈っても落ちない 可愛い顔した栓が まるで岩みたい 爪を立てたくない でも負けたくもない 大人の尊厳が 手のひらで震えてる 「手先で行くな! 体重を乗せろ! 迷うな! 瓶を真っ直ぐ立てろ! 娘さん 今ここで引けば ラムネは お前を覚えてしまうぞ!」 ラムネ ラムネ 青き瓶の魔獣よ 夏の喉元で まだ眠るのか ラムネ ラムネ 落ちろよビー玉よ この手のひらが もう限界でも 押せ 耐えろ ここで逃げるな 子どもも友も 見ているぞ ふいに ポンと音がした 勝った そう思った ビー玉は落ちた 封印は解けた 私は小さく 勝利を笑った その時だった 「ダメだ若いの! 油断するな! 力を込めろ! 死にたいのか! 五つ数えろ! 泡が来るぞ!」 ごぼりと 瓶の底が鳴る 白い泡が 喉を上がる 手を離せば 夏が噴き出す 机も浴衣も 終わってしまう ひとつ ふたつ みっつ よっつ いつつ ラムネ ラムネ 青き瓶の魔獣よ ビー玉の門を 今こじ開けた ラムネ ラムネ 泡よまだ眠れ この手を離せば 夏が暴れる 押せ 耐えろ 勝利はすぐそこ 冷たい雫が 指を伝った ラムネ ラムネ やっと飲める夏よ 手のひらの痛みも 勝利のしるし 私は笑って 瓶を傾けた その一口は 少しぬるかった でも確かに 夏の味がした