高樹町を 滑り出す車内 ヒールの音だけ まだ夜をまとってる 右手に浮かぶ ガラスの街 私より先に 朝を知ってる 塗り重ねた笑顔は 窓に映っても綺麗で 画面の中の私は今日も 誰かの「いいね」でできていた 赤い鉄骨の塔が 夜空にひとつ 浮かんでる 東京は今日も黙ったまま 何も知らない顔をしてる 眩しいほど 冷たい街 触れた指先だけ置いてきた 選ばれるための私だけが まだあの夜に残ってる 高く光る窓の下 低い道だけ影になってる 届かないものほど美しくて 少しだけ息が詰まる 銀座をかすめる 白いテールランプ 香水だけが まだ消えなくて 橋の向こうに 夜の輪郭 見ないふりして 目を閉じた 足元の暗さから見上げる 無数の灯りの群れ こんな高さまで届くものは ひとつも持っていなかった 明るい場所にいるほど 心は輪郭を失くしてく 静かな呼吸だけ連れて 帰ろうと思った 流れていく夜景はきっと 誰かの夢を映してる 私は私を演じたまま 窓越しの夜に揺れている 欲しかったものの名前さえ 思い出せなくなる頃に 窓の外だけ 綺麗だった 隅田川を越えた途端 街の温度が少し変わる 肩の力がほどける音を 初めて聞いた気がした 錦糸町の駅の下をくぐる 閉まった店に 灯りだけ残る 飾らない夜の中へ ようやく帰ってきた 誰にも見せない横顔で 今日という夜を脱いでいく 東京はまだ光ってる 私はやっと静かになる 信号が青になる もう画面は見ない



