彼は窓を飼っていた。 そんな、ふつうの人のおはなし。 布でガラスを拭く。壁の細長いほら穴。 朝日をまっすぐ通すのが自慢で。 澄みきった光の筋が、部屋を縦断していく。 窓を飼うということ。 窓の主食は朝日である。そして窓を拭く。 夕焼けは甘い香りがするが食あたりする。 空が熟れた日、窓はうれしそうに赤く染まり。 その夜、拭いても拭いても、赤みが抜けなかった。 朝になるまで、ふたり、眠れない夜。 翌朝、青白い光のなかで、 窓はゆっくり世界へ戻った。 Didn't need to see through it Nothing on the other side was fine デパートの窓、バスの窓、エレベーターの窓……。 どの窓もそれぞれに美しい、世界はステンドグラス。 でもうちの窓がいちばんだ。  ~~~   たくさんの矩形が並んでいた    「はい」「戻る」「送信」「閉じる」     縁石はどこまでも      続いてていて   顔をあげると    机も椅子もなく     細長い廊下に立っていた    壁に並ぶ窓の向こう     部長がいて      その見つめる矩形のなかに     また廊下があり      また部長がいて   無限回廊……   何時間経ったんだろう    朝日が どこからか     斜めに差しはじめて   窓が 開いて    A window connects      A window shuts you in  ~~~ 気がつくと、家の前に立っていた。 朝が来た。 窓が朝日を招いても、 もう手首の震える窓しか、見ていない。 朝日が手首を、腕を、顔を染めていく。 割れた窓が、朝日を静かにきらめかせる。 窓のほうをもう見ない、 彼はいまでも、窓を飼う人である。 The one who keeps a window Yeah, that's you