セルロースにしがみつくあたしの残渣 刺繍が施された葉脈の栞 灰濁した地下鉄の改札から光芒の先へ ステンドグラスのマリアの顔は見えない 喧騒を白い上靴に履き替えて 誰もいない講堂のピアノ重い蓋を開ける 浅い春は心も皮膚も揺らいでいて 鍵盤の上、紅く爛れた関節が踊る 人の望みの喜び それが何なのか 答えは誰かに任せよう あたしはただこの音に躰を任せよう 伴奏者という役が似つかわしくて それは卑屈でも謙遜でもなく 授業で描いたクロッキーの自画像と同じ ただ己を写し取った、答え合わせ 6年の歳月をかけて乙女たちは濾過される 大切なものを選べと不要なものは捨てろと そして、大切なものから掻把されていく 悲鳴を塞ぐように今日もピアノを弾くのだ 人の望みの喜び それが何なのか 決めるのはいつだって大人たち 濾過されなかったもの、それがあたしだ 主よ 人の望みの喜びよ あの日手放さなかったものが 接木の桜のように咲こうとしている