
天山の麓、星の光も見えぬ 朽ちた大杉の聖樹が風に揺れる 往古、ここは聖地であった 烏の神を守る一族がいた 彼らは時の流れに消えていった ただ後の世に誓願を伝えて ロキは悪あがきに聖樹に火を放った 佇む亡霊は山に消えた さらに奸計を企み 天山の門を永遠に閉ざそうとする そして亡霊が消えていったそばの山に登り出した しばらく登ると古びた社があった 雨に打たれながら上を見上げると 真っ暗な夜空が見える 一瞬だけ稲光が走った すでにロキではなく 本性を表した波旬の顔が照らされる 裏切り者の面影があった そのまま山を登っていく 天の門までたどり着くと どうしても閉ざすことができない 門からは靄が立ち込め、奥は光り輝いている 波旬は大鴉に口論を仕掛けるために入り込んだ 門の先には大鴉ではなく 宝冠を被り五色の天衣を纏った一柱の神がいた 慈愛に満ちた眼差しが波旬に注がれる 波旬はたじろいだが 悠然とした神に問いを投げかけた 完全だったはずの世界になぜ自分がいるのかと問う 神は善性を守るために両者を分ったと答える 誓願は悪しき者には届かないのかと問うた 神はしばらく考えたのち 波旬こそが世界の守護者であったと告げた 空も白み始め曙の明星が輝く 波旬は大鏡に映された 世の始まりからの己の姿を見た かつて仏を裏切った醜さに目を背けた 自らが引き起こした禍を終わらせたいと願い 神に秘密の真言を捧げた それは神にも及ばぬ病を除くという 直ちに不死鳥は空へと羽ばたいた 青く澄み渡った大空の太陽には 日暈が囲んでいる 不死鳥はさらに天上へと舞い上がり 愛しい世界を見下ろした 波旬は遥かな天を見上げて涙がこぼれた 天の頂きから不死鳥は大きく嘴を開き 破邪魔神咒を咆哮した たき たたらたき ろかれい まろかれい あら しゃら たら しゃか たき たたらたき ろかれい まろかれい あら しゃら たら しゃか たき たたらたき ろかれい まろかれい あら しゃら たら しゃか その言霊は爆ぜる火炎となり、全世界を焼き尽くした 不死鳥の神火によって一切は浄められた 天山の波旬は安らかな顔をして灰となった そして両翼を左右に広げ、大きく羽ばたかせた たちまち五色の風が世界の隅々まで吹き抜けた 初めに黄色い風が起こり 地に金を備えた 白い風は水を湧き立たせた 黒い風は草木を養った 青い風は火を起こして温めた 赤い風は灰を土に還らせた おわかりか 島の北東の聖なる杜で 男と女が身を隠し滅びを生き延びていた 彼らは穢れを知らぬ 二人は杜に残されたひとつの卵を見守り 子孫たちは世に満ちる 天空には五色の彩雲がたなびき 小島の波間には 大きな烏の羽がたゆたう

