乾いた風が 丘を越えて 古い道筋に 砂が踊る 彼の足跡 消えたはずなのに 弦は静かに その先を知る 彼はかつて この道を歩いた 奪われた名に 声を返して ひとつの町に 歌を残し また次の空へ 旅立ってゆく 壊れた橋も 錆びた鐘も 名もなき墓も 空の井戸も 彼の歌を 覚えていると 風がどこかで 囁いていた 彼女は今 その跡を辿る 赤いマントに 砂風受けて 見たことのない 町のはずなのに なぜか懐かしい 音がする 重なる足跡 季節を越えて 乾いた風に 歌が響く 名を返す旅路は まだ終わらず 弦はまた 次の町へ鳴る 彼はある日 石畳に立ち 名前をなくした 声を聞いた 剣が奪った 小さな明日に 弦を鳴らして 光を返す 彼女はある日 同じ道に立ち 胸の弦から 声を聞いた 彼に近づく しるしのようで 微笑みながら また歩き出す 春は花咲く 丘を越え 夏は乾いた 道をゆく 秋は赤き 森に眠り 冬は白き 息を抱いた 幾度季節は 巡っただろう いくつの町で 歌を聞いただろう それでも彼は 少し先で 今もどこかで 歌っている 重なる足跡 季節を越えて 乾いた風に 歌が響く 名を返す旅路は まだ終わらず 弦はまた 次の町へ鳴る もう一度だけ その腕の中で 鼓動の近くに 帰りたい それが何かを 知らないまま 彼女は恋と 名付けていた 抱かれた記憶 愛された記憶 けれど彼女は それを知らぬまま ひとりの女として その懐かしさを 胸の奥へと しまっていた 彼が残した 小さな歌は 町から町へ 風に乗った 名前を返す その旅ごとに 誰かの夜が 朝に変わる 重なる足跡 季節を越えて 乾いた空に 歌が響く なくした名前も 忘れた声も ふたりの旅で 光に変わる 彼を追うほど 彼に似てゆく 彼を探すほど 歌は増えてゆく まだ会えない まだ届かない けれど旅は 終わらなかった 重なる足跡 遠く遠く 風の向こうで 歌が呼び合う 名を返す旅路は まだ終わらず 弦はまた 次の空へ鳴る 重なる足跡 季節を越えて 彼の願いが 彼女を導く 会えると信じて 道を辿れば 弦はまた 次の町へ鳴る 乾いた風が 丘を越えて ふたりの時間を そっと繋ぐ 彼はどこかで 彼女は今も 同じ足跡を 辿り続ける