
[Voice: Calm, slight suspense, steady breath] 晴香さんの話では、お父様は晩年、重い認知症を患っていたそうです。 記憶が薄れ、娘の顔さえ分からなくなっても、毎日午後三時になると防音室に籠もり、録音ボタンを押してじっと座る日課だけは手放しませんでした。 亡くなった後、家族が再生しても、流れてきたのは「サー」という砂嵐のようなヒスノイズだけ。 親族は無意味なものとして捨てようとしましたが、彼女だけは諦めきれず、私の元へ持ち込んだのです。 私はテープを分解し、付着した白カビを丁寧に拭き取りました。 千切れかけたテープを繋ぎ直し、開盤デッキで再生を始めます。

