
「あっ、落としましたよ!」 老人を呼び止めた。 歩道に落ちたものを拾ってやる。 それは眉であった。 真っ白な眉。 「これはこれは。すまんすまん」 老人に白い眉を手渡す。 なるほど。 老人の顔には片方の眉がない。 「ありがとうな。助かったよ」 「いいえ。どういたしまして」 先を急いでいたら、老人に呼び止められた。 「もしもし。これは違うぞ」 片眉の老人が追かけてきた。 「これは左の眉ではないか」 老人の手のひらの上のそれを見る。 言われてみると、確かに左眉だ。 老人の顔を見る。 「落としたのは右の眉だ」 片眉の老人は断言するのだった。 なるほど。 老人の顔には右側の眉がなかった。 その反対側の眉を見る。 なんとも異様な眉であった。 なぜなのか、その理由がわかった。 「この左側の眉は、右眉ですね」 そう言われて、老人は驚いたらしい。 異様な眉が異様に下がったから。 おそらく、吊り上げたつもりなのだろう。 上下も逆さまだったから。

