Song Cover Image

蝶々の骨は見えぬまま

V4.5+

月の裏で生まれた名もなきものよ 朝と夜のあわいで、なにを夢見る? 箱の中は二つしか許されず けれど、私はただ、風でいたかった わたしは水でも火でもなく 滴る音で 自をなぞった 鏡には映らぬ感情の輪郭 名前を与えれば すべて曇る 母の声は やわらかき刃 父の背は 透明な壁 どちらでもない 私のための 靴が 見つからぬまま朝が来る 「あなたは、どちらなの?」 囁く声は 正しさの匂い でもそれは 咲ききらぬ蕾の蔓(つる) 言の葉で縛るだけのもの 蝶々の骨は 見えぬまま 羽ばたきだけが わたしを証す 男と女の谷間に咲いて 色を持たぬ心で歌う わたしは わたしを飼い慣らさない 形に溶け 音に還れ 「普通」ってなんだ 「正しさ」って誰だ 千切られた言葉の端を つないで踊る 夜道で刺さるのは光じゃない 目を伏せても 問われる性 制服で線を引くこの街は 硝子の理想を 押しつけるけど その中で息をするたび “わたし”が遠くなる音がした きぬごしの声で 誰かが笑った夜に 形に抗う術を 私は知った—音だった あやふやな輪郭よ 讃えよ 一つと二つの隙間に在る者 名も性も 火にくべて 残ったものだけが 真実となる ぽぴ ぽぴー きみはしって ぐるりとまわって さいしょにもどる でも そこにいたのは、だれ? (正解なんて なかったの) 蝶々の骨は 見えぬまま その影さえも 灰にとけた 男と女 言葉の檻で 測られぬものなど いくつもある この痛みは 呪いじゃないと いつか誰かが 歌うだろう もし はじめから 服に性別がなければ 声で差別されなければ それでも あなたは 私を 「不思議」と、呼ぶのか 雪が降る音と 同じ静けさで この世の隅に 花を置いていこう 名前のない 優しさだけを添えて 私であった 私のままで―