
言葉の手前で
喉の 奥で 固まった 声を 砕こうとして 舌を 噛んだ 画面の 上で カーソルだけが 瞬く 白い行が 静かに 待ってる こめかみの 奥で 潮が 満ちるのに 絞った 一言は 沈んで 届かない 指先が 覚えてた 文字の形も 濡れたインクのように 輪郭を 失う 急げ 急げ 世界はもう 次の 話をする 僕だけが まだ 水底で 口を 開け閉めしてる ああ 僕は 言葉の手前で 溶けてる 滲んだ 黒が 余白を 汚すたびに 輪郭のある 声で 渡したかったのに 夜が来るたび 同じ文が 違う意味に なる 伝えたいものほど 名前がない 伝えたいものほど 名前がない あなたが黙って 差し出した 掌に 僕は何も 載せられなかった 本当の言葉は 胸の底に 根を張り 引けば 千切れる それが 怖い 「伝わった?」って 聞けないまま 笑って 塞いだ 共犯の 沈黙 あなたが待ってくれた あの数秒が 肺の空気を 全部 奪っていった 急げ 急げ あなたはもう 背を 向けかけてる 僕の 喉だけが 凍った弦を 一本ずつ 千切っていく ああ 僕は 言葉の手前で 溶けてる 輪郭ごと 水に 還っていくようで 誰かの 余白に 落としたままの ままで 震えたままで よかったのに 朝が来るたび 下書きだけが 積み上がる 伝えたいものほど 名前がない 伝えたいものほど 名前がない 何万語 重ねても 掴めないのは あの一秒の 胸の軋みだけで 「分かってほしい」は 祈りに 近くて 言い切るほどに 声が 欠けていく 作っては 消した 夜の残骸で 部屋はもう 足の踏み場も ないけれど ふいに あなたの 輪郭だけが 滲まず すっと 見えた まだ 一行も 完成してない。 ああ 僕は 言葉の手前に 立ってる 画面を 閉じて 濡れた指で なぞる 正しくなくて いい 綺麗じゃなくて いい 滲んだまま 差し出す これが 僕の 全部だ 伝えたいものには 名前がなくていい 名前がないまま 手渡しに いく 輪郭のないまま 溶けたまま それでも まだ…… ……書いて、

