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少女の夜の夢 ― ヂューリエットと呼んで下され

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╭─────── ❦ ☾ ❦ ───────╮    少女の夜の夢 ― ヂューリエットと呼んで下され ― ╰─────── ❦ ☾ ❦ ───────╯ 本作は、坪内逍遥訳『ロミオとヂュリエット』の 語彙と世界観を下敷きに、 「劇中では描かれなかった幕間に、  二人がこのような会話を  交わしていたかもしれない」 という想像から生まれた楽曲です。 ヂューリエットが家の中で何を感じていたのか。 なぜロミオに惹かれ、 彼とならどのような未来を 生きたいと願ったのか。 原作の物語や結末を書き換えるのではなく、 その行間にあったかもしれない 一夜の対話として描いています。     ❦ ❦ ❦ 作中に登場する「てぃらみす」は、 物語の時代には存在しない、 意図的なIF要素です。 現代からひとつだけ落ちてきた言葉を、 ヂューリエットが自らの世界へ引き寄せて 理解してゆく―― そんな小さな時代越境として残しました。     ☾ まだ見ぬ海や町。 何気ない一日の終わり。 そして、 「また明日」 と言える未来。 これは、 そんな明日を夢見たかもしれない少女の、 一夜の物語です。 なお、「tiramisù」の語源とされる tirami su には 「私を引き上げて」「元気づけて」という意味があります。 この重なりは制作後に気づいた偶然でした。 ╭─────── ❦ ☾ ❦ ───────╮     ……まだ、    夜は明けませぬから。 ╰─────── ❦ ☾ ❦ ───────╯ 家の名ではなく もう一度…… ただヂューリエットと 呼んで下され 絹の衣(ころも)を纏ひても 此の胸までは飾れませぬ 母上の笑み 父上の聲 宴の灯りは絶えぬのに 誰も予には問ひませぬ 何が悲しい 何が嬉しい 何を夢みて 誰を慕ふ 美しき人形であれと 微笑むことを望まれて 聲なき聲で 幾夜も叫んだ 予はここぢゃ 予はここぢゃ キャピューレットの名ではない 此処に予が居(い)るのぢゃと 石垣の内は 甘き楽土(らくど)に見えませう されど舌に残るのは 苦き粉ばかり 「てぃらみす」とやらに 似て居るのでせうか ……ふふ ならば今宵だけは 甘うして下され 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 薔薇はその名を棄てたとて 薔薇でありませう 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 予はキャピューレットなれど 家の名だけが予ではない 名を呼んで名を呼んで 此の心も 此の涙も 此の吐息さへ予のもの 誰にも奪へませぬ 誰にも決めさせませぬ されば―― ただヂューリエットと 呼んで下され あなたの唇で幾度でも もしも此処を出られたら 何処へなりとも参りませう 海の見ゆる町がよい 湖のほとりも美しかろ 朝には知らぬ道を歩き 何を見つけて 何を笑ひ 何を語りて 誰と笑ふ 珍しき果実を分け合ひ 他愛なきことを語らひて 夕闇迫れば 肩を寄せ歩き 予はここぢゃ 貴下(あなた)とここぢゃ 貴下(あなた)の顔を見て目覚め 貴下(あなた)の聲を聞いて眠る 籠はもう嫌ぢゃ 独りで飛ぶのは願はぬ されど予が望むのは 共に飛ぶことぢゃ 「自由」とやらなら 共に飛べませうか ……ふふ ならば此の空こそ 共に参りませう 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 翼に家紋は無くとも 空は飛べませう 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 予は籠を出でたけれど 独りで飛ぶのが望みぢゃない 名を呼んで名を呼んで あなたと選び あなたと迷ひ あなたと笑ふ それがよい 誰にも縛られませぬ 誰にも閉ぢ込められませぬ されば―― ただヂューリエットを 連れて下され あなたの隣へ何処までも 荒磯はいけませぬか 深山(みやま)も? ……さやうですか 予が傷つくのが お嫌なのですね ……ふふ ならば海辺の町でよい 名も知らぬ宿を取り 小さな窓を開けませう 遠くの波を聞きながら 今日を二人で語りませう それで眠くなつたなら 「また明日」と言へたなら [Break] ……また明日 あぁ 何と美しき 言葉でせう 今日の続きに明日がある 貴下と予にも 明日がある 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 薔薇はその名を棄てたとて 薔薇でありませう 名が何ぢゃ家が何ぢゃ 予はキャピューレットなれど 家の名だけが予ではない 名を呼んで名を呼んで 此の心も 此の涙も 明日へ連れて参りませう 誰にも奪へませぬ 誰にも終らせませぬ されば―― ただヂューリエットと 呼んで下され 貴下の唇で幾度でも 名を呼んで名を呼んで 名を呼ばるるその度に 家より先に予になる 今日を共に終へられて 「また明日」と言へるやうに ただヂューリエットと 呼んで下され ヂューリエットと もう一度だけ呼んで下され ……まだ 夜は明けませぬから。