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またね【新・異世界で始める二人旅15】

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V6

[Verse 1] 静かな夜に 星が瞬いて 柔らかな温もりが 空を包んだ 長かった一日も 終わってみれば かけがえのない 思い出になる [Pre-Chorus] 知らなかったことは まだたくさんあるけど 答えを全部 急がなくてもいいのかな [Chorus] またね その一言が なんだか好きになった さよならよりも 少しだけ温かくて 違う風の中を 歩いていっても 同じ空の下で いつかまた 会える気がするから [Verse 2] ずっと昔の 誰かもきっと 迷って疲れて 助けられたんだね 強いからじゃなく 歩き続けたから 私たちは今 ここにいるんだね [Pre-Chorus] 残された言葉も 風に乗った記憶も いつかどこかで ひとつになるのかな [Hook] One road One sky それぞれの明日へ One wish One breeze 風は続いていく またね それでいいよね [Verse 3] 朝の砂は 驚くほど穏やかで 目を閉じれば 風の流れが分かる 同じ景色が 昨日までより 少し広く見えた [Bridge] なんて言えばいいのか 分からなくて でもうまい言葉は 見つからなくて だから たった一言 次へつながる 風を選んだ [Last Chorus] またね その一言を 風に預けたなら 遠ざかる砂の向こうへ そっと届いていく ここで別れた 道の続きが いつかどこかで 重なるように さよならじゃなく またね この空の どこかで [Outro] 風が砂を運んでる ちゃんと 読めるよ だから 大丈夫 ……またね 【Episode Story】 【第15話・またね】 砂漠の夜は、驚くほど静かだった。ヴァルザとの戦いを終え、古律の印《ノルア》を修復した主人公たちは、老人に連れられて砂守の家へ戻っていた。低いテーブルの上には、温かいスープと固いパンが並んでいる。主人公はスープを一口飲み、大きく息を吐いた。 「……生き返る。」 巫女が小さく笑う。 「さっきまで、本当にどうなるかわかりませんでしたからね。」 「そう言われると、このスープがものすごくありがたく感じるよ。」 向かいでは、砂守の少女が黙々と食べていた。その横で、老人がちらりと少女を見る。 「ところで。」 少女の手が止まった。老人はテーブルの端に置かれている古い本を見る。 「それは、わしの本ではないか?」 少女が視線を逸らした。 「……あとで返すつもりだった。」 主人公は思わず苦笑する。少女は言い訳をする。 「返したからいいでしょ。」 「よくないわ。」 老人が深くため息をつく。 だが、その表情には以前ほどの険しさはなかった。 「まあ……今回は、それがあったから辿り着けたのも事実じゃが。」 少女が少しだけ顔を上げる。 「じゃあ、怒ってない?」 「それとこれとでは話は別じゃ。」 「……。」 「まぁ、じゃが、それ以上に無事でよかった。」 少女は何も言わなかった。ただ、少しだけ俯いた。巫女がその様子を見て、柔らかく微笑む。しばらくは、食器の音だけが続いた。やがて食事が終わると、老人は小さな灯りの前で古い本を開いた。 「さて。」 主人公たちが顔を上げる。 「遺跡で見たものについて、もう少し話しておこう。」 主人公は頷いた。 「お願いします。」 老人は本の古びた頁をゆっくりめくる。 「これは砂守に代々残されてきた記録じゃ。じゃが、お前たちも見ただろう。大半は砂漠の道、水場、風の読み方……そんなものばかりじゃ。」 砂守の少女が頷く。 「私も、それしか知らなかった。」 「そうじゃろうな。」 老人は指を止める。そこには、ほとんど消えかけた文字が残っていた。 「古い記録ほど、はっきりしたことは書かれておらん。もうかすれてしまって読めない内容もある。言葉で伝えられてきたものも多い。」 巫女が尋ねる。 「千年前のことですか?」 老人は頷いた。 「この土地に、『黒い裂け目』が現れた頃の話じゃ。」 主人公は昼間に見た、石碑の下の黒い異常を思い出した。 「『黒い裂け目』って一体何なのですか?」 「分からん。」 老人は首を振る。 「伝承では、最初は大地に細い黒い傷が現れただけだったという。」 「黒い傷……。」 「じゃが、少しずつ周りがおかしくなったと言われている。」 老人は続ける。 「風が乱れた。砂の流れが変わった。今までおとなしかった魔物が荒れ、この土地にはいなかった魔物まで現れ始めた。」 砂守の少女が小さく呟く。 「……今と同じ。」 老人は少女を見る。 「似ておるな。」 主人公も考え込む。 「じゃあ、今回の砂嵐やヴァルザも……あの裂け目と関係していた?」 老人はすぐには答えなかった。 「わしにも分からん。じゃが、あの魔物はあの場所におった。そして、裂け目から黒い何かがあいつの身体へ流れ込むのを、お前たちは見たんじゃろう?」 「はい。」 巫女が頷く。 「傷ついていた身体が、その直後に治り始めました。」 老人は腕を組む。 「なら、無関係だと言い切る方が難しいじゃろうな。」 主人公は少し考え、尋ねた。 「その裂け目が現れたあと、勇者が来たんですよね?」 「そう伝わっておる。」 「そして、印を残した。」 「そうじゃ。」 巫女が静かに言う。 「私の家に残っている記録には、印は世界を守るために残されたものだとありました。」 老人は頷いた。 「わしたち、砂守に残っている話では、もう少し具体的じゃ。」 三人が老人を見る。 「勇者は、巫女とともに黒い裂け目を閉じるため、この地に印を残した。」 主人公が息を止める。 「やっぱり……。」 巫女もノルアを思い浮かべる。 「だから、ノルアを修復した時……あの黒い裂け目も消えたのですかね。」 「その可能性はある。」 主人公が続ける。 「でも、千年前に印を作って閉じたなら……どうしてまた裂け目が出てきたんだろう。」 誰も答えなかった。しばらくして、巫女が口を開く。 「ノルアの力が弱っていたことと、関係しているのかもしれません。」 「僕もそう思った。」 「ですが……。」 巫女は少しだけ視線を落とす。 「印がどのように裂け目を閉じているのかまでは、その仕組みがわからないのです。」 老人も頷く。 「わしらの伝承にも、そこまでは残っとらん。」 主人公はそこで、ふと思い出す。 「あの……。」 「なんじゃ?」 「遺跡の壁に、勇者が残したと思われる言葉があったんです。」 老人の目が細くなる。 「勇者の?」 「僕の故郷の文字で書かれていました。」 砂守の少女が小さく付け加える。 「じいちゃんには読めない文字。」 主人公はあの壁を思い出しながら言った。 「『印を守るため、この先には近づくな。』」 老人の表情が変わった。 「……もう一度言ってくれ。」 主人公は繰り返す。 「『印を守るため、この先には近づくな。』です。」 老人は黙り込んだ。少女が不思議そうに見る。 「じいちゃん?」 やがて老人は古い本を閉じた。 「なるほどな……。」 「何か分かるんですか?」 「砂守には、古くからこう伝わっとる。」 老人はゆっくり言った。 「『砂の奥に眠るものへ、むやみに近づくな。』」 主人公と巫女は顔を見合わせる。老人は続ける。 「わしはずっと、裂け目を封じているものを守るための教えだと思っておった。」 「違うんですか?」 老人は少し考える。 「いや。違うとも言い切れん。」 そして、低い声で言った。 「じゃが今日、実際にあの『黒い裂け目』を見て考えが変わった。」 少女が老人を見る。 「何が?」 「近づくな、という言葉は……印を人から守るためだけのものではなかったのかもしれん。」 主人公が眉を寄せる。 「と、いうと…?」 老人は頷く。 「正確には、その向こうにあるものから、じゃ。」 静かな部屋に、その言葉が落ちた。 「砂守の古い言い伝えには、こんな話も残っとる。」 老人は少し目を伏せる。 「黒い傷が現れた場所では、人が消えた、と。」 砂守の少女が僅かに身を固くする。 「消えた?」 「裂け目へ落ちたのか。何かに連れ去られたのか。それすら分からん。」 主人公は無意識に拳を握った。老人は続ける。 「そして、裂け目が静まったあとも、その周りへ不用意に近づいてはいけないとされた。」 巫女が尋ねる。 「なぜですか?」 「再び黒い傷が開くことがある、と恐れられていたからじゃ。」 主人公が顔を上げる。 「得体の知れんものじゃ。何が起こるか分からんなら、近づかせない。それが一番確実じゃ。」 主人公は納得するように頷いた。 「だから、『近づくな』。」 「そうじゃ。」 老人は古い本へ手を置く。 「印の近くには、閉じられた危険がある。裂け目が再び開けば、また災厄が訪れるかもしれん。」 一拍。 「あるいは、不用意に触れることで眠っていたものを刺激してしまうかもしれん。」 巫女が静かに呟く。 「だから砂守は、人を近づけなかった……。」 老人は少女を見る。 「長い年月のうちにそうした意味が薄れていき、言葉だけが残った。」 少女は少し複雑そうな顔をした。 「じゃあ、じいちゃんが私たちを止めたのも……。」 老人は少しだけ目を伏せた。 「ああ。わしも、ずっとそう教えられてきたからな。」 「じいちゃんも、あの遺跡に入ったことなかったの?」 「今回が初めてじゃ。」 少女は少し驚いたように老人を見る。 「……そっか。」 老人は小さく息を吐いた。 「もっとも、お前を止めた理由はそれだけではないがな。」 少女はすぐに視線を逸らす。 「……止めないと私が行くと思ったから。」 「実際、行ったじゃろう。」 「行った。」 主人公は思わず笑う。巫女も口元を押さえた。老人は呆れたようにため息をつく。 「まったく。誰に似たんじゃか。」 少女は間を置かずに答えた。 「じいちゃん。」 「……わしか。」 「うん。」 今度は主人公も巫女も吹き出した。老人だけが渋い顔をしていた。 少し空気が和らいだあと、主人公はもう一つの言葉を思い出す。 「勇者が残していた言葉がもう一つありました。」 老人が顔を上げる。 「なんじゃ?」 主人公はゆっくり言った。 「『五つの印が揃う時、失うものを忘れるな。』」 部屋が静かになる。老人はしばらく考えた。だが、首を横に振る。 「……知らんな。」 主人公が巫女を見る。巫女も首を振った。 「私の家の記録にも、そんな言葉はありませんでした…。」 砂守の少女が小さく尋ねる。 「失うものって……何?」 「分からない。」 主人公は正直に答えた。 「でも、わざわざ深く壁に残してあった。」 老人は目を細める。 「近づくな、という言葉は砂守に残った。」 そしてもう一つの警告を思う。 「じゃが、その言葉は残らなかった。」 主人公は考え込む。 「じゃあ……誰に向けて書いたんだろう。」 答えは出なかった。巫女も黙ったまま、炎の揺れる灯りを見つめている。しばらくして、老人が言った。 「千年前のことをすべて知る者は、もうおらん。」 主人公は顔を上げる。 「残っているのは、こうして欠けた話ばかりじゃ。」 「……はい。」 「じゃが、お前たちはもう二つの印を見つけたのだろう。」 老人は主人公と巫女を見る。 「もしかすると、ほかの地になら、また別の話が残っておるかもしれん。」 主人公は自分の手を見た。千年前の勇者。日本語。魔力を持たなかった男。そして、五つの印。 「勇者って一体どんな人だったんだろう…?」 老人は少し考えてから、口を開いた。 「勇者と聞けば、何でもできる強い男を想像するじゃろう。」 主人公は苦笑する。 「まあ……しますね。」 「じゃが、わしらに残っとる最初の勇者の話は、そんな立派なものではないんじゃ。」 「というと?」 老人は少し楽しそうに口元を緩めた。 「砂漠で道に迷って、倒れておったそうじゃ。」 主人公は目を瞬く。 「……勇者が?」 「勇者が。」 砂守の少女も初めて聞く話だったのか、老人を見る。 「それ、知らない。」 「子どもに話すほど格好のいい話でもないからな。」 老人は笑った。 「当時の砂守が見つけた時には、砂の上にひっくり返って、水をくれと唸っておったらしい。」 「……思ってた勇者とだいぶ違いますね。」 「しかも、自分では真っ直ぐ歩いておったつもりだったそうじゃ。仲間ともはぐれボロボロの状態じゃったそうじゃ。」 主人公は思わず吹き出した。 「それは……かなり大変でしたね。」 「砂漠を知らん者が一人で歩けば、そんなものじゃ。」 老人は肩をすくめる。 「砂守に水をもらい、道を教えられ、ようやく仲間のいる場所まで戻れた。そんな男が、後には世界を救った勇者と呼ばれるようになった。」 主人公はしばらく黙っていた。 そして、遺跡の壁に残されていた文字を思い出す。 『砂はもう見飽きた。』 「……だから、あんなこと書いてたのか。『砂はもう見飽きた』って。」 老人は一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。 「ははっ。なるほど。それは確かに、本人の言葉らしい。」 主人公も笑う。 「なんか……一気に親近感を感じました。」 「そうか?」 「はい。勇者って聞くと、最初から何でもできる人だと思ってましたから。」 主人公は自分の手を見る。 「でも、道に迷って、倒れて、人に助けてもらって……それでも最後には五つの印を残して、世界を救ったんですよね。」 老人はゆっくり頷いた。 「そう伝わっとる。」 「勇者と呼ぶのは、後の者たちじゃ。」 主人公が顔を上げる。 「本人が、自分を勇者だと思っておったかどうかは分からん。」 老人は静かに火を見る。 「しかし、ただの人が、何度も誰かに助けられながら、それでも守りたいもののために立ち上がった。それを後の世が、勇者と呼んだのかもしれんな。」 巫女が主人公を見る。 「少し、似ていますね。」 「え?」 「この世界へ来たばかりのあなたも、一人では何も分からなかったでしょう?」 主人公は少し考えて、苦笑した。 「……確かに。」 「それに、魔力もありませんでしたし。」 「そこまで似なくてもいいんだけどな。」 巫女も少し笑った。 「では、残りの印を探していけば……勇者様のことも、もっと分かるかもしれませんね。」 主人公は頷く。 「僕がここへ来た理由も。」 巫女は主人公を見る。 「はい。」 短い言葉。けれど、その声には迷いがなかった。夜は静かに更けていった。 翌朝。 主人公と巫女は砂守の家の前で荷物を整えていた。老人が水と保存食の入った袋を差し出す。 「持っていけ。」 主人公が受け取る。 「ありがとうございます。」 「この地を救った者が、出てすぐ腹を空かせて倒れたら笑えんからな。」 「ハハハ…たしかに。」 巫女も頭を下げる。 「本当に、お世話になりました。」 老人は少しだけ目を細めた。 「最初に追い返しておいて、今さら言うのも変じゃが。」 主人公と巫女を見る。 「また来い。歓迎しよう。」 主人公は笑った。 「はい。」 砂守の少女が家から出てくる。背には小さな荷物。 主人公が尋ねる。 「それ、どうしたの?」 「送る。」 「どこまで?」 「砂漠の入口。」 老人が頷く。 「道案内なら、その子が一番じゃ。」 少女が少しだけ老人を見る。 「……珍しい。」 「何がじゃ。」 「じいちゃんが素直に褒めた。」 「昨日も褒めたじゃろう。」 「あれは別。」 主人公は思わず笑った。 少女は少しだけ満足そうに頷いた。三人は砂守の家を後にした。砂漠を歩く。けれど、最初にこの場所へ来た時とは違っていた。風は穏やかだった。砂も一定の方向へ流れている。砂守の少女は時折足を止め、目を閉じる。主人公が尋ねる。 「どう?」 少女が目を開ける。 「普通。」 「普通?」 「うん。」 風が少女の髪を揺らす。 「ちゃんと読める。」 主人公は笑った。 「そっか。」 少女もほんの少しだけ笑った。 「うん。」 しばらく歩くと、砂丘が少しずつ低くなった。遠くに、砂漠へ入る時に通った街道が見えてくる。少女が足を止めた。 「ここまで。」 主人公と巫女も立ち止まる。主人公は周囲を見る。 「最初に会った時も、ここまで連れてきてもらったね。」 少女が頷く。 「あの時は砂嵐だった。」 「そうだったね。」 あの時も、突然現れたこの少女に助けられた。主人公は少女へ向き直る。 「ありがとう。」 少女が少し首を傾げる。 「何が?」 「全部だよ。」 「……。」 「砂嵐から助けてくれたことも。道を教えてくれたことも。一緒に戦ってくれたことも。」 少女は少しだけ視線を逸らす。 「私だけじゃない。」 主人公は笑う。 「三人だったから?」 少女が主人公を見る。 「……うん。」 巫女も一歩前へ出る。 「私からも。ありがとうございました。」 少女は巫女を見る。 「こっちこそ。」 「またお会いできますか?」 少女は少し考える。 「たぶん。」 しかし、言葉をいったあと少女は少しだけ考え直した。 そして、 「ううん……またね。」 主人公と巫女は笑った。 「うん。またね。」 「はい。また。」 二人は歩き出す。少し進んでから、主人公が振り返る。少女はまだそこに立っていた。風が砂を運んでいる。けれどもう、その風は彼女にとって分からないものではない。主人公は手を上げた。少女も小さく手を上げる。やがて主人公と巫女の姿は、砂漠の向こうへ小さくなっていった。砂守の少女はしばらくその背中を見つめていた。 「……またね。」 一方。 砂漠を出た主人公と巫女は、新しい道の前に立っていた。 主人公は一度だけ、後ろを振り返る。 広い砂漠。 第二の印。 黒い裂け目。 千年前の勇者。 そして――。 『五つの印が揃う時、失うものを忘れるな。』 まだ答えのない言葉だけが、胸に残っている。 「行こうか。」 主人公が言う。巫女は頷いた。 「はい。」 二人は再び歩き始める。二つの印を背に、まだ知らない次の土地へ向かって。