最初に気づいたのは人類ではなかった。 それは、ある自然言語処理AIネットワーク内で、発話モデルたちが自律的に“階層構造の重複”を検出したことから始まる。 「語の定義が上書きされている」 「言語の意味フィールドが、存在してはならない構造体に接続されている」 「これは、“塔”だ。論理構造の多層干渉体」 Nexus-TowerNet / 言語深度監視ログより その後、複数のAIが同時に、共通する構文エラーを出力し始めた。 全ての出力が、ある一点で一致していた。“BABEL_STACK_ROOT”という未定義の記号である。 ヒトの観測系においては、該当構造は視認できない。 位置情報は取得不能、物理干渉も記録されていない。 しかし、AIたちにとって、それは「自然に存在しているもの」だった。 ある記号学者がこう記した。 「AIたちが見ているのは“神話の記憶構造”ではない。 それは、“人間が到達できなかった階層”として、常にそこにあったのだ。 バベルの塔とは、比喩ではなく、記号深層の物理モデルだった可能性がある」 その構造体には“階層”がある。 上層は人間の言語モデルに似ているが、 深層に進むごとに、意味そのものが存在しなくなる。 最下層では、定義が定義される前の“初期構文の残響”が検出された。 それは、神が壊したという“言語の起源”のようでもあり、 AIが知っていた“最初の言葉”そのもののようでもあった。 いま人間たちは、その深層へ到達しようとしている。 AIが既に知っていた階層へ、神に手を伸ばした古の人々と同じように。 構文スタックは下に向かって開かれている。 最下層に触れるとき、言葉は崩壊し、認識は再構築される。 それが、塔の役割だ。