
📖 歌詞はサイドストーリーの後に記載しています。 🎧 Japanese lyrics are written after the side story. 🌧️🌌🕯️🗝️ ──────────── 🎬 群青の誓いと白銀の刃 第5話『視線の継ぎ目』 登場人物: 🌌 ノエリス ヴァルモント家へ迎えられた、過去を失った少女。 自分が何者だったのかは思い出せないままだが、人の動きや視線から危険を察する感覚が身体に残されている。 🕯️ オーレリア・ヴァルモント ヴァルモント家の令嬢。 亡き母エリシアから受け継いだ「人が何を見ていたかを覚えておく目」と、父エドガルドから学ぶ「事実を確かめる姿勢」を、自分自身の判断へ変え始めている。 🏛️ エドガルド・ヴァルモント ヴァルモント家の現当主であり、オーレリアの父。 領内で続く不自然な人と荷の動きを警戒しながらも、確証のない恐れだけで娘を屋敷へ閉じ込めることはしない。 ──────────── 📖より詳しい描写や会話を含む完全版は、カクヨムで公開しています。 この物語をもう少しゆっくり辿っていただけたら嬉しいです。 https://kakuyomu.jp/works/2912051599757211144/episodes/2912051606113025660 🎬 群青の誓いと白銀の刃 過去作をプレイリストにまとめました👇 https://suno.com/playlist/9f5ff17d-70d9-4099-8eb1-c370ef57c5da ──────────── 【サイドストーリー】 第5話「視線の継ぎ目」 領内から届く報告を調べ始めてから、数日が過ぎた。 街道。 宿場。 中継所。 市場。 そして、オーレリアについて何気なく尋ねる人々。 どれも、それだけなら事件ではない。 けれど偶然として片づけるには、同じ方向を向くものが少しずつ増えていた。 それでも、ヴァルモント家の日々を止めるわけにはいかない。 その朝。 オーレリアは以前から予定されていた宿場町の視察へ向かった。 共同井戸。 雨で傷んだ街道の補修。 市場の荷置き場。 大きな問題が起きたからではない。 次期当主として、実際に自分の目で確かめるための視察だった。 出発前、エドガルドが尋ねる。 【エドガルド】「今日の予定を知っている者は」 【オーレリア】「父上と、同行する者。それから現地の責任者だけです」 【エドガルド】「予定外の場所へ寄る必要はない。だが、必要以上に警戒しているようにも見せるな」 【オーレリア】「本当に、行ってもいいのですか」 【エドガルド】「誰かに見られているかもしれないというだけで屋敷から出なくなれば、領内を見ることもできなくなる」 少し間を置く。 【エドガルド】「警戒することと、怖がって何もしないことは違う」 オーレリアは静かに頷いた。 その少し後ろには、同行するノエリスが控えていた。 朝のうちに屋敷を出た馬車は、一時間半ほどで宿場町へ着いた。 街道沿いには荷車が並び、旅人、商人、荷運び人の声が飛び交っている。 オーレリアは現地の責任者から説明を受けながら、まず共同井戸へ向かった。 【責任者】「以前より待つ者は減りました。ただ、朝はまだ少し混み合います」 【オーレリア】「朝は、どのくらいの時間混み合いますか」 【責任者】「日の出からしばらくの間です。それを過ぎれば、今のところ大きな混雑はありません」 【オーレリア】「では、朝の利用人数と井戸の水位をしばらく記録してください。夏になってから足りないと分かっても遅いですから」 【責任者】「承知しました」 【オーレリア】「暑くなる前に、もう一度確認しましょう」 結論を急がず、まず必要な記録を残す。 少し離れた場所で、ノエリスはそのやり取りを聞いていた。 以前なら、知らない土地も、知らない人々も、多くの視線も怖かった。 けれど今は、誰かに呼ばれれば返事をする。 オーレリアが歩き出せば、その半歩後ろへつく。 少しずつ。 その位置が、自分の場所になり始めていた。 市場では、古い荷置き場の近くに仕事を待つ荷運び人たちがいた。 以前より別の荷継ぎ場所を通る荷が増え、ここでの積み替えが減っているという。 【オーレリア】「理由は分かっていますか」 【責任者】「商会ごとに事情が違います。道の状態もありますし、向こうの方が早いという話も聞きます。どれか一つが理由というわけではないかと」 荷が通る場所が変われば、そこにあった仕事も変わる。 オーレリアは何も決めつけず、いつ頃から変化が増えたのか記録を頼んだ。 その時だった。 ノエリスの視界の端に、一人の男が入る。 果物屋の前。 店主と話しながら果物を眺めている、どこにでもいる旅人。 次の通りでは、その男はいない。 代わりに、宿屋の軒先で馬具を直す別の男。 さらに先では、荷車の横で商人と話す別の男。 顔も違う。 服も違う。 年齢も違う。 それでも、胸の奥に冷たい感覚が残った。 ノエリスは振り返らない。 代わりに、店先の金属の盆へ一瞬だけ視線を向けた。 鈍い光に歪んで映る後ろの景色。 そこには、また別の男がいた。 けれど。 見ている場所だけは同じだった。 オーレリア。 その瞬間、頭の奥に知らない声が落ちる。 ――同じ目で追うな。 ――見られたと思ったら、次へ渡せ。 誰の声なのかは分からない。 光景もすぐに消えた。 【オーレリア】「ノエリス?」 【ノエリス】「……失礼しました」 オーレリアはそれ以上問い詰めなかった。 午後も視察は続いた。 荷が増えたという商人。 変わらないという商人。 別の中継地を使うことが増えたという商人。 話は一つにまとまらない。 町には活気がある。 その一方で、荷の流れが少し変わっただけで仕事を待つ時間が増えた人もいる。 どちらも、この町で起きていることだった。 日が傾き始めた頃、一行は宿場町をあとにした。 屋敷へ続く街道。 左右には畑と低い木々が続き、人家は少なくなっていく。 前方から突然、大きな音が響いた。 馬がいななき、御者が手綱を引く。 【御者】「止まります!」 少し先。 一台の荷車が道の中央で大きく傾き、木箱が街道へ落ちていた。 そのままでは馬車が通れない。 護衛たちはすぐに動いた。 一人は前方を確認する。 別の者は後方を見る。 馬車のそばに残った護衛も、道の両側へ目を配った。 【荷車の男】「申し訳ありません! 車輪が石を踏んでしまって!」 護衛は荷車の下と周囲を確認する。 目立った異常はない。 【護衛】「箱を端へ寄せれば通れそうだ」 護衛の一部が荷車へ向かい、残った者は馬車のそばへ位置を変えた。 そこへ、近くを歩いていた旅人らしい男たちが声をかける。 【旅人】「手伝いましょう」 【護衛】「では、箱の方を頼む。馬車には近づかないでくれ」 【旅人】「分かりました」 二人、三人と男たちが荷車へ近づいていく。 不審な様子はない。 道で困る者へ手を貸す、ごく普通の光景にも見えた。 護衛も警戒を解いてはいない。 ただ、彼らを止める理由がまだどこにもなかった。 馬車が止まると、ノエリスはすぐに外へ降りた。 荷車。 木箱。 護衛。 手伝いに来た男たち。 誰一人、不自然な動きをしているようには見えない。 けれどノエリスは、彼らが何をしているかではなく。 何を見ているかを見ていた。 箱へ手を伸ばした男は、箱をほとんど見ていない。 護衛と話す男は、返事を聞きながら別の場所を見る。 道の端から近づく男の視線は、馬車へ向いていた。 オーレリアがいる場所。 ノエリスが一歩だけ動く。 大きな動きではない。 男と馬車の間へ、半歩位置を変えただけ。 男の足が止まる。 さらにその向こう。 木立の近くにも一人の男がいた。 荷を手伝うでもなく、街道を歩くでもなく、ただこちらを見ている。 頭の奥で、また声がする。 ――一人を見るな。 ――次を見る。 ――その次を見る。 ――継ぎ目を探せ。 知らないはずのことを、身体が知っている。 道の端の男が、もう一歩だけ馬車へ近づこうとした。 【ノエリス】「そこから近づかないでください」 男の足が止まる。 馬車脇の護衛がすぐに振り返った。 【護衛】「どうした」 まだ、彼らが何をしようとしているのかは分からない。 だから、分かったことにしてはいけない。 【ノエリス】「……荷が崩れていますので、オーレリア様の周囲へ人が集まりすぎない方がよいかと思いました」 護衛は周囲を見直す。 【護衛】「そうだな。手を貸してくれる者は荷車の方へ。馬車の周りは空けてくれ」 男たちは素直に従った。 ただ。 荷車のそばにいた一人だけが、ノエリスを見ていた。 男はノエリスを見る。 ほかの男を見る。 道の端を見る。 木立を見る。 そして、もう一度ノエリスを見る。 男にも気づかれた。 ノエリスが、その視線を追っていることに。 ほんのわずか。 男が首を横へ振った。 それだけで、近くにいた男の動きが止まる。 道の端の男も、それ以上近づかない。 木立の男も、やがて視線を外した。 誰も何も言わない。 武器も抜かない。 けれど。 何かが終わった。 まだ、始まってさえいないうちに。 箱は街道の端へ移され、荷車も脇へ寄せられた。 馬車が通れる幅が空く。 誰かを捕らえる理由もない。 武器を抜く理由もない。 ただの荷崩れと、親切な旅人たち。 そう説明することもできる。 馬車が再び動き出した。 車内で、オーレリアが尋ねる。 【オーレリア】「さっき、何を見ていたの?」 【ノエリス】「……人です」 【オーレリア】「荷車じゃなくて?」 【ノエリス】「はい」 【オーレリア】「何人?」 【ノエリス】「少なくとも、四人です。木立にも一人いました」 護衛には止める理由がなかった。 武器も、脅しも、接触もなかった。 【オーレリア】「私を襲おうとしていた?」 【ノエリス】「分かりません」 ノエリスは言葉を選ぶ。 【ノエリス】「荷車で道が塞がれて、護衛の方々の注意の一部が荷車へ向いて。その間に、何人かがオーレリア様の近くへ位置を変えようとしていたように見えました。でも、その先に何をするつもりだったのかは……分かりません」 【オーレリア】「それなのに、何もしなかった」 【ノエリス】「……私が見ていることに気づいて、やめたように思います」 それでも、なぜ自分に気づかれただけで退いたのかは分からない。 【オーレリア】「戻ったら、父上に話しましょう。あなたが見たことを、そのまま」 【ノエリス】「私の思い違いかもしれません」 【オーレリア】「それも含めて」 少しだけ笑う。 【オーレリア】「分からないことを、分かったことにしないのでしょう?」 ノエリスは静かに頷いた。 夕刻。 屋敷へ戻ると、護衛からの報告はすでにエドガルドへ届いていた。 『帰路、荷崩れにより一時停止』 『負傷者なし』 『周囲を確認。不審な動きは認められず』 『近くにいた旅人らの協力により、短時間で通行再開』 ノエリスは、見たものだけを話した。 荷車。 護衛たちの注意の一部が荷車へ向いたこと。 近づいてきた男たち。 荷を見ていなかった目。 オーレリアへ向けられた視線。 木立にいた一人。 そして、自分と目が合ったあと男たちが退いたこと。 【エドガルド】「武器を抜いた者は」 【ノエリス】「いません」 【エドガルド】「オーレリアへ触れようとした者は」 【ノエリス】「いません」 【エドガルド】「何か言葉で脅されたか」 【ノエリス】「いいえ」 【エドガルド】「なら、襲撃だったとは断定できない」 短い沈黙。 【エドガルド】「だが、護衛が何も見つけられなかったことが、何もなかった証明にもならない」 オーレリアは、皆が荷車へ注意を向けていた時、ノエリスだけが人を見ていたから尋ねたのだと話した。 エドガルドの目元が、ほんの少しだけやわらぐ。 【エドガルド】「……エリシアなら、同じことを聞いただろうな」 【エドガルド】「なら、今分かっているのはそこまでだ」 エドガルドは荷車について調べさせると告げた。 オーレリアが今日の予定を知っていた者も確認するのかと尋ねると、父は頷きながらも釘を刺す。 【エドガルド】「確認する。だが、最初から誰かが漏らしたと決めつけるな」 予定が漏れていたとは限らない。 宿場町で目をつけられ、後を追われた可能性もある。 今の段階では、荷崩れ自体が偶然だった可能性も残っている。 そしてノエリスを見る。 【エドガルド】「もし、お前が見たものが正しいのなら、相手は今日、一つ知ったことになる」 【オーレリア】「何をですか」 【エドガルド】「こちらには、向こうの知らない者がいる」 その頃。 街道沿いの宿の裏手で、二人の男が話していた。 【男】「なぜやめた」 【男】「荷車は予定どおり道を塞いだ。護衛の注意も分かれた。令嬢の近くまで行けたはずだ」 【男】「……聞いていない女がいた」 【男】「使用人だろう」 【男】「違う。こちらが動く前から、見られていた」 護衛は決められた仕事をしていた。 それでも、あの女だけは違った。 【男】「あのまま進めば、あの女は止めに入った」 【男】「一人だろう」 【男】「問題は人数じゃない。騒ぎになれば意味がない。あの場で続けても、目的は果たせない」 短い沈黙。 【男】「……何者だ」 【男】「それを先に調べる」 【男】「令嬢から確かめるはずだったことは?」 【男】「別の手を使う」 夜の風が通り抜ける。 【男】「同じやり方では行かない」 夜。 ノエリスは自室へ戻った。 部屋の隅には、古びた布に包まれた細長い荷がある。 視界の端にその布が入った瞬間。 胸の奥が冷たくなる。 ほんの一瞬、知らない光景が浮かんだ。 薄暗い場所。 古い布が擦れる感触。 何かを強く抱えている腕。 荒い呼吸。 そして、誰かの声。 ――離すな。 ノエリスが息を呑む。 光景はすぐに消えた。 今日、街道で自分を見た男たちは何もしないまま退いた。 自分は彼らを知らない。 自分が何者だったのかも知らない。 それなのに。 自分の身体は、彼らの視線を追う方法を知っていた。 どこを見るべきか。 何を見なくていいのか。 誰かと誰かの間にある、わずかな継ぎ目。 それを知っていた。 【ノエリス】「……私は、何を忘れているの」 答える声はない。 ただ、聞こえたはずのない言葉だけが胸の奥に残っていた。 ――離すな。 ノエリスは包みへ近づかなかった。 触れることもできなかった。 それでも、失われた過去のどこかにあるものが、ほんの一瞬だけ今の自分へ触れてきたような気がした。 屋敷の窓には、今夜も変わらず灯りがともっている。 その光の外側で、こちらを見ていた者たちは初めてノエリスという存在を知った。 そしてノエリスの中でも、閉ざされていた記憶の断片が、ほんのわずかに現在へ触れ始めていた。 まだ。 互いの正体は分からない。 ただ。 これまで一方から向けられていた視線が、初めてノエリスという存在へ向き直った。 そのことだけは、もう偶然ではなかった。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは関係ありません。 🌧️🌌🕯️🗝️ ──────────── すれ違う影の向こう なぜか胸だけが騒いでる 知らないはずの気配まで どこかで覚えているように 振り向かないで 次を見る 誰の言葉かも分からない 怖いはずなのにこの身体は 迷うより先に動いてる まだ名前さえ持たないものが 静かにあなたへ近づいて 理由も何も分からないまま 気づけばその前に立っていた 同じ景色のはずなのに 私だけ何かが違って見える 交わらないはずの瞳から 見えない糸がほどけてゆく 目が合った ただそれだけで 止まったものがそこにある 何も始まっていないのに 静けさだけが変わっていた 分からないことは分からない それでも消えないこの感覚 見なかったことにはできなくて あなたのそばを離れられない どうして 私は知っている 誰の声を 覚えているの 閉ざした夜の ずっと奥で ――離すな 過去の私は まだ遠くて その名前さえ知らないけれど この胸があなたを選ぶなら 今はこの場所に立っていたい

