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死亡フラグ上官

V6

朝の喇叭が鳴るころに 春の光が軍靴を照らす 大尉殿は笑って言った 「今年の桜は間に合うだろう」 兵舎の空気が一秒止まる 誰かが無言で天を仰ぐ その横でおまえが茶をこぼす 三分遅れて屋根が落ちた 悪気もない 曇りもない だから余計に胃が痛い 一歩進めば 二歩危ない なのに今日もなぜか無傷 死亡フラグ上官 どうかその先を言わないで 最後のひとつ 形見の時計 春に会おうと笑わないで 死亡フラグ上官 弾丸さえも肩をすり抜ける おまえが隣にいるだけで 今日も世界は間一髪 母が漬けた梅干しを 最後のひとつと差し出して 「おまえにやろう」と穏やかな顔 後ろの兵士が青ざめる 訓練終わりの山道で 「戻ったら皆で一杯やろう」 つまずく拍子にふたり伏せ 頭上を弾丸が駆け抜ける 土埃払って ひとこと 「偶然とは重なるものだな」 誰かが胸を押さえている 大尉殿は今日も平常 死亡フラグ上官 どうしてそんなに爽やかなんだ 遺書も手紙も懐中時計も まだ使わずにしまっておいて 死亡フラグ上官 落石さえも三分遅い おまえが隣にいる朝は なぜか今日まで明日になる 夕暮れ 静かな執務室 懐中時計の針が鳴る 帰営の門へ向く視線 その理由だけ本人は知らない おまえがいないと妙に静かだ それだけ言って茶をひとくち いつか桜が散る頃には 何を数えているのだろう 遺書じゃなく 別れじゃなく 湯呑みがふたつ並ぶ朝を まだ誰も知らなくていい 死亡フラグ上官 この戦いが終わったら なんて微笑むそのたびに 兵舎の全員が息を呑む 死亡フラグ上官 今日も奇跡は名乗りもしない おまえが隣を歩くなら 春は何度でも間に合うだろう 死亡フラグ上官 形見なんかはまだ早い 「さて、今日も良い日にしよう」 どうか明日も そう笑ってくれ