
クーガが去り、ゆりは「やっと安心して眠れる」と喜んでいた。クーガの横でもぐーすか寝ていたが、普段よりも睡眠時間はかなり短かったはずだ。 「クーガ様の方がきっとぐっすりだよね」 ゆりはそんなことを思いながら目を閉じた。すぐに夢を見ているようだ。ゆりは二人に分かれていた。 「ようやくほっとしたね」 黒目のゆりは、もう一人の自分に言った。 「クーガ様の理性、筋金入りだね。キラキラガーベラにもその気にならないなんてさ」 蛇の目のゆりが言った。 「そうね。まあ、清純派がタイプなのよ。何もなくてよかったわ」 「そう」 などと話していたら、輝きが近くに現れて、二人はまぶしげに目を細めた。その輝きは人の姿をしていた。やはりアシュランである。 (げっ怒られる) 黒目のゆりはびびっていた。 アシュランは二人に近づいてきた。 「お前達に頼んでよかった。やはりお前達は期待を裏切らないな」 アシュランはすごく機嫌がよさそうである。 「え?」 「クーガだ。もうしばらくこのままでいると言ってくれたぞ。王妃の説得が効いたらしい」 「え? ……説得した?」 黒目のゆりは蛇の目のゆりに聞いた。 「え? いいえ」 蛇の目のゆりも首を横に振っている。 「約束通り、石の箱は満杯にしてやる」 「ええ!? 本当ですか?!」 クーガのことよりも、箱の石に黒目のゆりは反応していた。 「これで満杯だ」 アシュランの手にぱっと箱が現れた。 「開けてみろ」 黒目のゆりがおそるおそるふたを開けると、全部のマスに石が入っているではないか。 「うわっやったあ! 一杯だ。石が全部集まったあ!」 黒目のゆりは大喜びで、蛇の目のゆりと両手をつなぎ、横に振っていた。 「やったやった!」 「よかったね」 「ミシェイラに自慢できる! 「よくやったな。というわけで2箱目だ。がんばれ」 アシュランは箱の蓋を閉じて、さらに箱を置いていた。 「え? に……2箱目? いえ、いいです。もうこれで」 黒目ゆりの頬は引きつっている。 「何を言う。これで終わりじゃお前も拍子抜けだろう? そうじゃないか」 「いや、まあそうですが……でも……」 「アシュラン様、箱が満杯になったら何かくれるっておっしゃっていたと思うんですが」 蛇の目のゆりが聞いた。 「ああ忘れてないぞ。バッジをやろう。ちょっと持っててくれ」 アシュランは箱を蛇の目のゆりに渡して、手にぱっと何かを出した。それはキラキラ光るもので、アシュランはそれを黒目のゆりの胸元につけた。 「キレイですね」 真ん中には丸い円の金色の石があり、その周りには放射状に突起が出ていた。5センチほどの大きさのものだが、金色の石の部分は、よくみると、金色の粒がぐるぐる動いている。 「かわいいじゃない」 蛇の目のゆりは顔を近づけてバッジを見ている。 「それがあれば聖地では飲み食いはタダだぞ」 「聖地に行ってみたいですが行けないですからねえ。でも、飾りとしてもらっときます」 「聖地に瞬間移動だってできるぞ」 「え?」 「そうだな。10回。往復で5回にしとくか」 「え? じゃあ日帰り聖地ツアーとか可能ですか?」 黒目のゆりの目が輝いた。 「ああ、可能だ」 「……でも王様は許してくれないよね」 黒目のゆりは蛇の目のゆりを見た。 「せっかくなので、箱の石のご褒美にアシュラン様の招待で聖地旅行ってことにしてくれたら、王様も了承してくれると思うんですけど、だめでしょうか」 蛇の目のゆりはそう言ってみた。 「いいぞ。聖地で一泊くらいしていけばいい。私が招待状を出してやる。王も了承してくれるだろう」 「えーえー本当に? 子供も連れてっていいですか?」 「いいぞ。二人くらいならな。聖地は結構広いからな。誰かに案内させよう。クー」 「スペード様でおねがいしまっす!」 黒目のゆりは身を乗り出して頼んでいたので、アシュランはのけぞっていた。 「え? スペード? この話の流れなら、クーガに頼むだろう。普通は」 「クーガ様は当分私には会いたくないですよ」 「そんなことはないと思うが」 「スペード様の案内で聖地観光、ああ、楽しみだなあ。すっごく楽しみです。ハロルド様には完全に内緒でお願いします」 もうすでに案内人はスペードでゆりの中では決まっていたので、アシュランはそれ以上は何も言わなかった。 「まあいいか。日時はおって知らせる。王妃、今後も頼むぞ」 「はい」 「じゃあな」 光の輝きは消えた。

