
あの日の道場に 夕暮れの光 小さな足音が 畳に響いてた 兄貴がやってた いつもの理由 僕も道着に 袖を通した 週に一度か 二度くらいかな 一年間 通い続けた 白い帯を締めて 並んで立った 右も左も よく分からない 技の名前さえ 覚えきれないまま 今日もみんなで 声を出した 強くなりたかった ……たぶん そんな気持ちも 少しだけあった 白い帯を 結んだまま 季節だけが 過ぎていった 春も夏も 秋も冬も 同じ道場へ 向かってた 楽しかったかと 聞かれたなら うまく答えられないけど あの一年間の景色だけは 今でも覚えている 練習が終わり みんなで整列 いつものように 前を向いてた 静かな時間が 流れていた その瞬間までは 一つ上の子が 突然振り向き 何が起きたか 分からないまま 顔に正拳突きが 飛んできて 道場の空気が 止まった 先生が駆け寄り 周りが騒いで そんな中で 言われた言葉 今でもなぜか 覚えている 「先生に指さしちゃダメだぞ」 僕は何も 指さしてなんか いなかったのに 白い帯を 結んだまま 最後まで 白いままだった 強くなったか 分からないけど 一年間は そこにあった 楽しかったかと 聞かれたなら やっぱり少し 困るけど あの日のことだけ 鮮明すぎて 今でも忘れられない 顔面に正拳突きを受けて 鼻血がボタボタ 上の帯には 一度も届かなかった それでも あの瞬間だけは 僕の帯は赤く染まった 謀らずも赤帯になれた その日を 堺にして 僕は空手を やめました 春も夏も 秋も冬も 同じ道場へ 向かってた 何かを成し遂げたわけじゃない 強くなれたわけでもない だけど突然 飛んできた拳と あの言葉だけは残ってる 「先生に指さしちゃダメだぞ」 僕は指さしてない

