
月はなにも訊かないままで 白い鍵盤に、夜だけが降る 手すりに残るひとの熱も 風がさらって、もう見えない 灯りの滲む遠い道路 帰らないものばかりよく光る グラスの縁を指でなぞれば 言えなかったことが揺れている きれいなままで終わるものほど あとから少しだけ、胸に重い 名前を呼べば嘘になりそうで 今夜はただ、黙っている Nocturne 月の下で、ほどけもしない夜を抱く Nocturne 街の音が、古い傷まで照らしていく 消えないものを消さないままで 朝までここで鍵を鳴らすよ 煙のように過ぎた季節は 形も持たずに、まだ残る やさしさだけじゃ越えられないと 知ってしまった夜は、少し渋い 並んで見てたはずの景色が 今はひとりぶん、広すぎる それでも月は欠けもせずに 何も責めない顔で浮かんでいる 戻らなくても、壊れてなくても 遠くに置く、それでいい Nocturne 窓の向こう、眠りきれない灯を抱く Nocturne 触れないまま、淡い記憶を連れていく 消えないものを飾らぬままで 朝までここで、息をつないで 愛と呼ぶには静かすぎたし 忘れたと言うには、きれいすぎた だから今夜は、ただこのままで 月に預ける 言葉の代わりに Nocturne 月の下で、ほどけもしない夜を抱く Nocturne 街の音が古い傷まで照らしていく 失くしたものも、失くしてないものも 朝の手前で同じように揺れる Nocturne 白い鍵盤、誰にも言えない音になる Nocturne 夜の底で、わたしは静かに明けていく 月はなにも訊かないままで 白い鍵盤に、夜だけが降る

