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夏に射殺された男

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V5.5

歪んだアコギのノイズがループする。真夏の太陽が、コンクリートのように硬い砂浜をジリジリと焼き焦がしていく。波の音が、まるで嘲笑うかのように低く響いている。「触んな、生理的に無理」スピーカーが割れるような、だいこうけいの破壊的な銃声が脳内で爆発した。汗と強烈な日焼け止めが混ざり合って、肌の上でドロドロに溶けていく。すれ違いざまに鼻を突く、安物の甘ったるい香水の匂い。視線が絡んだ瞬間、獲物を見つけたような歪んだ笑みが口元に浮かぶ。「ねえ、LINEくらい教えてよ、減るもんじゃないし、これからヒマでしょ?」必死に作った余裕のある声が、うだるような熱気の中に消えていく。彼女は一言も発さず、ただ冷徹な目でこちらを凝視する。バッグから取り出したのは、アルコール配合のウェットティッシュ。ほんの一瞬、俺の指先がかすめてしまった彼女の腕の皮膚。そこを、まるで汚物でも拭い去るかのように、真っ赤になるまでガシガシと擦り続ける。その皮膚が擦れる乾いた音が、静まり返ったビーチにやけに生々しく響き渡った。鼓膜を容赦なくぶち破る、冷酷な拒絶の銃声。それは魂の奥底までをゴミのように扱う、決定的な一撃。「マジでゴキブリ並みに無理だから、視界に入らないで」目の前で、隠そうともしないあからさまな嘔吐のジェスチャー。プライドなんて、とっくの昔に粉々に砕け散っている。波打ち際に打ち上げられたクラゲのように、俺の恋心はドロドロに干からびて死んだ。負けを認められなくて、現実から逃げるように言葉をまき散らす。「俺さ、実は港区にタワマン持ってて、普段はこんなとこ来ないんだけど」ペラペラと軽い嘘の弾丸を並べて、必死に自分の価値を吊り上げようとするマウント。「来週、身内だけでクルージング行くからさ、特別に招待してあげてもいいよ?」哀れなほどに震える声で、最後の虚勢を張り続ける。彼女はただ、冷え切った薄笑いを浮かべながらスマホの画面を見つめている。会話をすることすら放棄して、ただ画面をフリックする指先。気づけば、俺の腕元にある「高級時計の偽物」が、彼女のカメラのレンズに捉えられていた。一切の躊躇なく、裏側で撮影され、リアルタイムでアップロードされる現実。ネットの海の底へと、俺の醜態が沈められていく感覚だけが残る。タイムラインに、目に見えない銃声が何度も、何度も鳴り響く。それは消えることのない、デジタルタトゥーの蜂の巣だ。「ウケる、ビーチに偽物時計の痛いナンパ師いたわ(笑)」一瞬で拡散されていく、汗まみれでブサイクに歪んだ俺の顔写真。匿名の悪意が、銃弾となって全方位から俺の肉体を貫いていく。まだ夏は始まったばかりなのに、俺という存在は完全に社会的に抹殺された。上空を不吉に舞う、カラスの不快な鳴き声が響く。波打ち際には、誰かが飲み残してぬるくなったストロング缶がポツンと転がっている。トドメの引き金が、静かに引かれる音がした。カチャリ、と虚しく響くのは、もう弾の入っていない空砲の音。殺されすぎて、もう撃つ価値すら、残されていない。男のブツブツと呟く「……死にたい」という声だけを遺して、世界は静かに闇へと消えていく。