
(口笛) 冬が来るたび思い出す 小さな炬燵と あの日の鍋 すき焼きなんて高級品 今じゃなおさら手が届かねえ だけど今夜も明かりが灯る 牛すき鍋が俺を待ってる 秋田の田舎の古い家 母と兄たち炬燵を囲む 鍋の中には白菜と ネギと豆腐が煮えていた 時々入った豚の肉 これもすき焼き そう言われた 牛肉なんて知らなかった 16までは知らなかった 吉野家さえもない町で 本当の味を知らずに育った あの頃 俺には馴染めなかった 豚肉入りの偽物すき焼き だけど不思議と覚えてる 皆で囲んだ小さな炬燵 牛すき鍋! 冬のご馳走! 安い幸せ 湯気の向こう 甘辛タレに肉が踊る 白菜豆腐に隠れたうどん 本物なんて届かなくても 温かければそれでいい 偽物だって構わない うちのすき焼き これでいい! 時代は変わり 俺も変わり 炬燵の景色は遠くなった 就職氷河期 生まれた時代 最初の勝負で負けが決まった 税金借金 容赦はない 物価は上がって 暮らしは下がる 国産牛肉知らんぷり 高級路線で澄まし顔 すき焼きなんて夢のまた夢 いつしかどうでもよくなった あれから何年経ったのだろう 俺は今では名古屋暮らし 故郷になかった店の明かりが 冬の夜中に俺を呼ぶ 牛すき鍋! 牛すき弁当! すき家に吉野家 ほっともっと! ほっかほっか亭も負けちゃいない 冬の食卓彩ってくれる 肉を二倍に卵を二つ 普通の盛りでも十分美味い どの鍋にだって潜んでる 奥に隠れたうどんが美味い! 15時間働いても ろくに稼げぬフーデリ暮らし 眠気と疲れが増えてゆくだけ 明日の暮らしも見えてこない 深夜の割増 それさえ痛い だけど今夜は 温かいすき焼き食わねばならん 食わねばならん… (口笛) なあ母さん 覚えてるかい あの狭い炬燵のすき焼きを 本物じゃないと思ってた だけどあの日はもう帰らない 牛すき鍋! 俺のご馳走! 今日も一日生き延びたんだ すき家の鍋に吉野家の鍋 弁当屋にも冬がやってくる 肉も野菜もうどんも食べて 卵にくぐらせ飯をかき込む 本当の贅沢 何だったのか 今なら少し分かる気がする 皆で囲んだあの日の鍋は 偽物じゃない 本物だった! 冬の深夜に湯気が昇る 疲れた身体に染み込んでゆく 高くて立派なすき焼きなど とうの昔に諦めた それでも今夜は心が温かい また明日も働こう 牛すき鍋…… (口笛)

