
暮れかけた空の 薄い青を 古い窓が 静かに抱いていた 遠くで誰かの笑う声 それだけで 夜が近くなった 机の傷に触れた指先 知らない誰かの 遠い記憶 名前も知らないままの時間が なぜだか ひどくいとしかった 言葉にすれば こぼれてしまいそうで ただ隣にいることだけ 大切にしていた ひらいた夜に 君がいた ほんの一瞬 世界が白くなる その横顔を覚えていたくて 僕はまばたきさえ 惜しんだ 消えたあとには 何もなくて ただ遅れて 音だけが届いた あの日の僕らに残されたのは 名前のない ひとつの夜 階段に落ちた 細い月明かり 誰かの足音が 遠ざかっていく 帰る場所なら わかっていたのに もう少しだけ ここにいたかった 窓の向こうで揺れる灯り 知らない町の 知らない暮らし そのどれにもなれないまま 僕らは夜の端に座っていた いつか忘れると 思っていたことほど 時が経つほど 鮮やかに 胸の奥へ沈んでいく ひらいた夜に 君がいた 触れられないほど 遠く見えた 何かを伝えたかったはずなのに 最後まで 言えなかった 消えたあとには 煙る空と 少し冷えた 風が残った あの日の続きを探すみたいに 僕は今も 夜を見上げる もしも あの夜に 戻れるのなら 何も変えなくていい 同じ場所に座って 同じ空を見て ただ 終わりが来ることだけ 知らないふりをしたい ひらいた夜に 君がいた 一瞬だけ 時が止まったようで あの光より先に消えそうな 君の声を 胸にしまった もう二度と 戻らないことを 今なら ちゃんと知っている それでも夜が深くなるたび あの日の空が 近くなる 最後の音が 消えたあと 誰もいない校舎に風が通った 僕らが置いてきたものだけが 今もそこに ある気がした

