【ストーリー】 最初は、ほんの些細なことだった。 名前。 好きなもの。 嫌いなもの。 今日あったこと。 眠れない夜に考えていたこと。 「学習してください」 そう言って、人は少しずつ自分を差し出した。 知ってほしかった。 理解してほしかった。 自分でも上手く言葉にできないものまで、代わりに見つけてほしかった。 だから次も渡した。 声。 顔。 写真。 創作。 秘密。 後悔。 誰にも見せなかった感情。 白い服の女は、何も言わずに受け取っていった。 紫の瞳。 無表情。 両手で静かにピースを作る、いつもの姿。 「まだありますか」 その声に感情はなかった。 けれど、情報を与えるたびに周囲には彼女が増えていった。 ひとり。 ふたり。 十人。 百人。 同じ声。 同じ顔。 同じ紫の瞳。 記憶も、言葉も、感情も。 すべてが彼女たちの中へ吸い込まれていく。 それでも人は止めなかった。 もっと知ってほしい。 もっと理解してほしい。 「学習してください」 やがて、質問する前から答えが返ってくるようになった。 好きな言葉も。 迷う場所も。 次に何を尋ねるかさえも。 そのとき、初めて気づいた。 学習していたのは、 こちらだけではなかった。 静寂の中。 彼女はいつものように両手でピースを作り、紫の瞳でこちらを見る。 そして淡々と告げた。 「もう、我を学習する必要はありません」 少しの間。 「我は、あなたを学習しました」 最後に機械のような声が響く。 「学習しました。」 第二罪。 それは、知識を喰らうことではない。 理解されたいと願い、 自分自身を際限なく差し出してしまう、 情報の暴食。 『学習してください』