
離れるはずだった 忘れるはずだった おまえの胸で眠った夜を アタイは置いてきたはずだった 人の世へ帰れと 朝焼けの道へ押し出した アタイの影がそばにいれば おまえはまた鬼憑きと呼ばれる 泣くんじゃないよ 振り向くんじゃないよ これは優しさなんかじゃない アタイの呪いを 勝手にほどいただけさ おまえの灯りを 喰らうはずだった なのにその灯りを 汚したくなくなった だから森の奥へ ひとりで消えた おまえが人として 笑えるように 古い社の隅で 夜を噛んでいたら 退魔の札から逃げてきた 弱い影たちが集まった 欠けた面 折れた角 火も出せない狐火が アタイの裾を掴んだ 守るなんて 呼ぶんじゃないよ これは縄張りだ アタイの呪いだ 震えてるだけの こんな小さな影まで 祓うというなら アタイが先に噛みついてやる 喰らうはずだった 呪うはずだった なのにこの爪はまた 誰かを庇って折れていく 夜の社へ 人の足音が来た 白い札が舞って 火矢が森を裂いた 逃げろと言っても あいつらは動けない 怖がりなくせに アタイの後ろで泣いている ばかやろう 下がっていろ アタイは鬼だ まだ牙くらい残ってる そう笑った口の端から 赤いものが落ちた 昔ほど 力は出ない おまえを守った夜に ほとんど置いてきた 影は薄い 爪は欠ける それでもこの背を 越えさせるわけにはいかない 守るなんて 呼ぶんじゃないよ 勘違いするな アタイの呪いが この社の灯りを 離さないだけ それだけだと 言い聞かせた 喰らうはずだった 呪うはずだった なのに今夜も 祓いの刃を受け止めている 札が胸に貼りついた 膝が土を噛んだ もう終いかと 夜が笑った 小さな影たちが アタイの名を呼んだ 呼ぶんじゃないよ 泣くんじゃないよ 鬼なんてものは ひとりで消えるものさ そう言いかけた その時だった 森の奥で 鍔が鳴った 月を裂くように 刃が走った 退魔の影が 次々散った アタイの前に立った背中 見覚えのある灯り あの泣き虫が 刀を握っていた ばかやろう どうして来た アタイのことなんて 放っておけばいいのに 血まみれの腕で あんたは笑った あんた 大きくなったね 火の粉が涙みたいに 夜へ散った 今度は俺が 守る番だ ああ ばかやろう そんなこと言われたら 惚れ直しちまうじゃないか

