
通勤電車の蛍光灯の下で 同じ景色が流れていく 帰り道のコンビニの明かり また今日も終わる 画面の中の小さな報酬 指先で集めるログインの儀式 母の声が頭をよぎる 「お父さん、あまり良くないの」 でも疲れてるはずだから 今電話したら迷惑かもしれない 明日にしよう、また明日に そう言い聞かせてアプリを開く 受話器を取れば 知りたくない真実が待っている この選択の重さから 逃げ出したいだけなのに 私は知ってる、何が正しいかを 頭では分かってる、今すぐ電話すべきだって でも心が動かない この青い光の中に沈んでいく 責任という名の荷物が 私の肩を押しつぶす 「今の私」は楽を選んで 「明日の私」に全てを託す 会議室の時計が4時を指す メールの返信、また増えてく 自分のための時間なんてない そう言い訳を重ねる スマホの通知が鳴るたび 心のどこかでビクビクしてた 母からの連絡だったらどうしようって 違うと分かるとほっとしてる 「元気だから心配しないで」 そんなメッセージを一方的に送って 既読がついたのを確認して また画面の中へ逃げ込む そして、その日が来た いつもと同じ夜のはずだった 母の声は震えていた 「余命、三ヶ月だって」 ああ、私は知ってた ずっと知ってたんだ 電話ができないんじゃない したくなかったんだ 老いていく声を聞くのが怖くて 死という現実を認めたくなくて 自分が「弱い」って認めるのが嫌で 物語を作って逃げてた 「疲れてる」「忙しい」「明日こそは」 全部、嘘だった 本当は私が 自分の自由に耐えられなかった 病室の白いカーテンが揺れる やつれた父の手を握る 「ごめんね、来なくて」 父は微笑んで言った 「いいんだよ、お前も大変だから」 その優しさが 胸を突き刺す 通勤電車の蛍光灯の下、 今日も私は生きていく でも、もう知ってる 逃げた先には何もないことを

